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いつも他人にちょっかいをかける事を生きがいにしているオレがペースを乱される相手、それがこいつ、スペインだ。
今日もいきなり訪ねて来て無茶苦茶な要求を突きつけてきた。
もうペースを乱すとかじゃなくて、オレに意思がある事なんて微塵も考えてないとしか思えない。もしくは自分の要求する言葉をオレが喜んで言うのだと信じて疑わないのだろう。
それくらいこいつは自意識過剰で空気が読めていない。



「…なんや、オレはこんなに愛しとるって言っとるのに、お前は言ってくれへんの?」
さっきからそんな科白ばかり飽きる事なく繰り返している。
しかもこいつ、突然庭から現れてこの態度だ。その上オレがどんなに言っても家の中に入ろうとしない。
「こんなにって程言われた事ないんだけど?それにお前の言う『愛してる』はどれが本気か全然わかんないよ。ロマーノに言うのとオレに言うのに差があるのかよ?」
憎まれ口をたたきながら、とりあえず自分が飲むついでに淹れたフェオレを窓越しにスペインに差し出す。スペインはそれを受け取ると一気に飲み干してさらに話を続けた。
「そんな風に言うん?オレ心外やわー。今の発言めっちゃ傷ついたで。」
そんな事を言っても顔は思いっきりにやけているじゃないか。「はいはい、オレも愛してるよ」と軽くあしらうと「心がこもってへんからやり直しや」と頬を膨らませる。オレがこいつに告白するまで意地でも中に入る気はないのだろう。
ああダメだ、これじゃ完全にこいつのペースで話が全く進まない…。
プロイセンならきっと今頃上機嫌で家の中に入っているだろうに。
…そんな事を思いながらも、こいつの余裕を崩したくてオレはその喧嘩を買う事にした。


「…なぁフランス、お前まだ言ってくれへんのー?陽も落ちてきたし、オレそろそろ中に入りたいんやけど…」
スペインはキッチンに立つオレに向って大声で呼びかける。
いまだに根競べの勝敗はつきそうにない。どちらも自分が優位に立っているつもりで駆け引きをしているからだ。…まぁお互いに意地をはってるだけで、駆け引きなんて高度なものでもないか。
「入りたきゃ入れってさっきから言ってるだろ?オレは許可してるぜ?」
夕食の準備にとりかかりながら、ため息まじりにオレは答えた。
「フランスの告白聞いとらんからまだ入れんわー。…なぁ、早よ言って?」
相変わらずへらへらと笑って同じことを繰り返す。こいつ、疲れないのか?まぁオレも人の事は言えないか…。
「言えるか、そんな事…大体どうしてお前に告白しなきゃならないんだよ!」
「えー、やっぱ好きなやつの家に入るんやから、ちゃんと確認しとかなあかんやろ?」
確認ってなんだ?まだそんな事をほざいてやり過ごすつもりか?お前オレの家に何回入った事あると思ってるんだよ。たぶん何百って単位だぞ!?
オレは調理の手を止めて、スペインが顔を出している窓へ視線を向けて口を開いた。
「はは、意味がわからないなー。…それに知ってるんだぜ?お前がいろんな女の子と遊んでるってことくらい。」
オレの言葉にスペインの顔は少しだけ曇ったように見えた。今までの返事より効果のある発言だったらしい。
これでようやく違う流れになりそうな予感がした。
「遊んでる?オレが?何言ってんねん、そんな事するわけないやろ。オレが信用できひんの?」
スペインはさっきまでの態度から一転して、思いつめたような表情で言う。
ちょっとからかい過ぎたかなと思ったけれど、今更止められるわけもなく、オレの悪態は続く。
「信用って何だよ。どうせ相手の名前も覚えてないくらい遊んでんだろ?」
「仮にそうやったとしても、お前もオレの事言えんくらい遊んでるやろ?」
「オレは皆平等に愛してるからいいの!老若男女関係ないし!!」
「…女の子と遊ぶなんてオレにそんな器用な事できると思っとるん?」
不毛なやり取りが続いた後のスペインのその言葉に、オレは息を飲んだ。
「……っ…」
ああなんだ、そういうやり方かよ。まいったな……。
一言でも返すべきだった、と思ってももう遅い。あいつのペースにのまれたオレの負けだ。そんなオレの心中を珍しく察したらしいスペインは、どういうわけか急にふき出し始めた。
「フランスはいつも強情やなあ。…ま、そんな所も好きやけど。」
目くばせをしながら腹を抱えて笑う。
なんでそんなに楽しそうなんだよ、オレが反論しなかったのがそんなに嬉しいかお前。
ああもう、言うよ、言えばいいんだろ!でないとこの場が永遠に収まらない気がしてきたよ。
…それに実際の所、こいつが何しに来たのかは始めから何となくわかってはいたんだ。
「……好きだよ、ばか。これで彼女がいたら呪ってやる。」
「え、何?今よく聞こえんかったわ、も一回言うて?」
オレが意を決して口にした言葉は、告白相手のスペインによってあっけなく水の泡になった。
「もう言わねーよ、ばか!早く中入れよ!」
「…なーんてな。嘘やで、ちゃんと聞こえとるよ。お前の言うことやもん、フランス。」
屈託なく笑うスペインを見ていると、呆れて怒る気も失せてきた。
ホント無神経なやつだな…相手が女なら殴り飛ばされてるぞ。そう思ったが名前を呼ばれたせいか、気恥ずかしくて何も言えない。
……まともに相手するだけ時間の無駄だった気がして、オレは今までの疲れが一気に押し寄せてきたような感覚に襲われる。
「なんだよ、とぼけやがって。…だったらその後ろに隠してる花束さっさとオレによこしてキスのひとつでもしたらどうなんだよ。」
最後のプライドを振り絞って捨て台詞を吐くと、「あ、気付いとったん?」とこともなげに言われる。
「オレにしては気がきいとるやろ?普段こんな事せんもんやから結構恥ずかしかったんやで。」
そう言ってやっと家の中に入ってきたスペインは、拗ねた子供のような態度のオレを宥めるように、耳元で「誕生日おめでとう」と囁き軽く頬にキスを落とす。
渡されたのはもちろん薔薇の花束。しかもなぜかふたつあった。
「花束…ふたつあるのか」
オレ仕様の深紅の薔薇と、サーモンピンクの品のある薔薇。どちらも見覚えがある。
「そや。どれにしよか迷ったんやけどな…結局両方とも買ってしもたわ。」
「また何でふたつも…」
「たまには赤以外の色もええかなと思てアストレ選んでみた。これ、『最も美しいフランスの薔薇』って言われとるんやろ?でもお前にあげるんやったらやっぱ赤いバラも外せんやん?…だってお前は愛の国フランスやし、オレは情熱の国スペインやからな!」
そんな決め台詞を言ったスペインは意気揚々としている。たぶんこれがこいつの今日の目的だったんだろう。
「そうだな…」
最も美しいフランスの薔薇、か。おそらく花屋の店員の受け売りだろう。その証拠にこいつはもうひとつの深紅の薔薇、クリスチャンディオールを知らないようだ。
だがそんな事は関係ない。今はこいつがオレに薔薇を贈ってくれた事実だけで充分だ。
受け取った花束をじっと眺めていると、スペインは花束からアストレを一輪だけ引っこ抜いてオレの頭にさした。
「…けど二つ買って良かったわ。さすがオレのフランスや。うん、めっちゃ似合っとるでー。キレイやわあ。」
相変わらずのきざな言動でオレは調子を乱されっぱなしだが、本人は無意識なので何も言えない。
「…あっそ。」
幸せそうなスペインにすっかり毒気を抜かれたオレはやっとそれだけ言うと、観念してしばらく身を任せる事にした。
もういいよ、勝手にしてくれ。でも「オレのフランス」って何だよ、いつオレがお前のものになったんだ?
…言いたいことはたくさんあるが、当面はくたびれたこの身体を癒すのが先だ。
「…とりあえず夜だし、夕飯食ってくだろ?」
ぎゅうぎゅうとオレを抱きしめながら歯の浮くような科白を繰り返すスペインをとりなして、なんとかキッチンにたどり着く。
「……しょうがない、特別にいいもの出してやるか。」
料理を皿に盛り終わったオレはそう呟いて、ワインセラーへと足を向けた。
美味い料理と恋人のいる食卓。こんな贅沢な時間はいつまで続くかわからない。だったら少しくらい豪華な演出をしてもいいはずだ。…それになんたって今日はオレの誕生日だしな。
そんな事を考えながらワインセラーに立ったオレは、奥に寝かせてあったとっておきのワインを取ると、スペインの待つテーブルへと急いだ。



   fin.

***
「HAPPY BIRTHDAY For July」に投稿したもの(仏誕2009)。色々恥ずかしい。
タイトルはcoldplayの曲から(西仏はこれしかないと思った)。「人生万歳」とか「美しき生命」って訳されてるスペイン語です。
フランス兄ちゃんが乙女ちっくですみません…。

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