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明日は誕生日だというのに今日は普段にも増して仕事が忙しかった。
帰路についていると、さっきよりも風が少し冷たくなってきたように感じた。雲行きも怪しくなってきたので、私は焦りから歩く速度を早める。
腕時計に目をやると、あと一時間で日付が変わる事を示す。食欲よりも疲労の方が勝っていたので、家についても夕食を作る気力はないなと思った。
軽くため息をつきながら家の門をくぐり、暗闇の中を感覚だけで歩く。ドアの前まで来た時、私は思わず足を止めた。ドアの前に人影を感じたからだ。驚いて反射的に息を殺して様子を伺っていると、向こうも私に気づいたようで、すぐに聞き慣れた声が耳に入る。
「あーライナ、おかえりだしー!」
「え……もしかして、ポーランド!?」
すぐに警戒心は薄れて私はドアに近づいた。
ポーランドはドアにもたれて地べたに座ったままだった。
「こんな時間にどうしたの?」
「遊びに来たんよー。でもケータイ忘れて連絡入れられんかったから、ここで待ってたんよ。」
いつもと変わらない調子でそう言っていたけれど、彼の格好はどう見ても遊びに来たという感じじゃない。デートにでも行くようなきわめてフォーマルに近い服装だった。しかも足元には荷物もあるみたいだ。
「…じゃあずっとそこにいたの?」
私がそうたずねると彼は「八時くらいに着いたと思うけど、寝とったからよく覚えてないんよー」とはぐらかした。
「と、とにかくあがって。何か食べる物作るわ」
ドアを開けて玄関や部屋の灯りをつける。
「あー…そんなん別にしなくていいんよ。」
珍しく気まずそうにポーランドはそう言って、冷蔵庫を開けていた私の手を止める。
「でもポーランドお腹空いてるんじゃない?」
「それはライナも一緒やろ?こんな遅くまで仕事しとったんやからオレよりライナの方が疲れてるに決まっとるし。…簡単なやつでいいんやったらオレが適当に作るし、ライナはシャワーでも浴びてきたらいいんよ。」
「でも……」
「いいから!」
ポーランドはためらう私を無理矢理バスルームへ向かわせる。仕方なく私は彼の言う通りにすることにした。
気心の知れた相手なので、今更彼に対する不信感はない。周りにはわがままだと思われているかもしれないけれど、彼はああ見えて女性に対してはかなり紳士的だ。少なくとも一緒にいる時はいつも私を最優先に考えて行動してくれる。それが一時的なものだったとしても、彼のそんな一面を知るのはかなり限られた人だけだと思うので、優越感にも似た嬉しさがある。
シャワーを浴びながらそんな事を考えて、彼の真意を探る。思い当たるのは私の誕生日くらい。口には出さなかったけれど、たぶん当たっているだろう。そう決め込んでしまうと、さっきまで抱えていた憂鬱な気持ちはどこかへ消えていて、彼の作る夕食を心待ちにしている自分に少し呆れた。
そうと決まれば私も彼の格好に合わせる必要がある。
私はバスルームを出て自室へ向い、身支度を整える。選んだドレスは淡い水色。それからドレスと同色のリボンと軽い化粧をした。
リビングへ行くと、私を見たポーランドは「さすがライナ、ちゃんとわかっとるやん」と呟いて微笑んだ。私の推測は間違っていなかったようだ。
テーブルには新しいクロスが敷かれていて、食事の準備が整っていた。どこから探してきたのかわからない花瓶に花も生けられている。カサブランカとかすみ草、どちらも純白で綺麗だ。ピンクやオレンジといった可愛らしい色合いを好む彼が、時々こういうギャップを見せてくれるのは計算されたことなのかもしれない。
それでもこの状況に新鮮な気持ちを与えてくれることは確かで、ただ食事をするだけなのに妙にドキドキしてしまう。
「ライナ、ワイン飲むやろ?」
彼の言葉に頷くと、冷やしてあった赤ワインを注いでくれた。
ふと時計を見るともう日付は変わっていた。ポーランドは最後の料理をテーブルに並べると「味付けとか、オレんち風で悪いんやけど…」と言いながら席についた。
「もう気付いとるのは知っとるんやけど…ライナ、誕生日おめでとうだしー!!」
ワイングラスを持って乾杯しながらポーランドは私の誕生日を祝ってくれた。久しぶりに飲むワインも彼の手料理もとても美味しかった。
食事の後にベッドへ流れ込むのは最近の私たちの間ではパターン化している。例に漏れず、今回もテーブルに並べられた料理を堪能してから私とポーランドは寝室へ移動した。そしてベッドサイドにウォッカやつまみを置いて映画を見たり話し込んだりするのだ。
酔っているのか、時々ポーランドは甘えるように抱きついてきてキスをしたりする。お菓子ばかり食べている彼のキスは甘い。
「んっ……ちょっ、ポーランド酔ってるの?」
「オレが酔っとるわけないやん」
そう即答されたけれど、酔ってる人は大抵「酔っていない」と言うものだ。
「もう…」
本当に彼はギャップが激しい。かわいいもの好きで横暴だったりする時や、さっきのようにちょっとかっこよかったり、今みたいに子供のようだったりする。結局私も彼の幼なじみ同様、彼に甘いのだ。
「ねぇ、どうして今日うちに来てくれたの?」
会った時と同じ質問をしてみる。今の状態なら彼の本音がきけるに違いない。
「…そんなんライナの誕生日だからに決まっとるやろ。」
「前の晩から会う必要があったの?」
「だってオレがせっかく祝うんやから、一番に祝いたかったんよー。…日付変わる時に一緒にいるのが確実やしー」
それにロシアには負けたくなかったんよ、と付け加えてポーランドはそのまま寝てしまった。私は嬉しくなって、彼の額にそっとキスをして「ありがとう」と小さな声で言った。
きっと彼には聞こえていなかっただろう。それでもいい。まどろみの中にいる彼を見ていると、不思議と幸せな気持ちに満たされた。
ついさっきまで気付かなかったけれど、寝室にもリビングのテーブルと同じ花が飾られていてカサブランカの香りが漂っている。そんな香りの中夢を見るポーランドの隣で、私も幸せそうに眠る彼と同じ夢が見られたらいいのに、と思いながら目を閉じた。
fin.
***
タイトルはポーランド語で「誕生日」。
帰路についていると、さっきよりも風が少し冷たくなってきたように感じた。雲行きも怪しくなってきたので、私は焦りから歩く速度を早める。
腕時計に目をやると、あと一時間で日付が変わる事を示す。食欲よりも疲労の方が勝っていたので、家についても夕食を作る気力はないなと思った。
軽くため息をつきながら家の門をくぐり、暗闇の中を感覚だけで歩く。ドアの前まで来た時、私は思わず足を止めた。ドアの前に人影を感じたからだ。驚いて反射的に息を殺して様子を伺っていると、向こうも私に気づいたようで、すぐに聞き慣れた声が耳に入る。
「あーライナ、おかえりだしー!」
「え……もしかして、ポーランド!?」
すぐに警戒心は薄れて私はドアに近づいた。
ポーランドはドアにもたれて地べたに座ったままだった。
「こんな時間にどうしたの?」
「遊びに来たんよー。でもケータイ忘れて連絡入れられんかったから、ここで待ってたんよ。」
いつもと変わらない調子でそう言っていたけれど、彼の格好はどう見ても遊びに来たという感じじゃない。デートにでも行くようなきわめてフォーマルに近い服装だった。しかも足元には荷物もあるみたいだ。
「…じゃあずっとそこにいたの?」
私がそうたずねると彼は「八時くらいに着いたと思うけど、寝とったからよく覚えてないんよー」とはぐらかした。
「と、とにかくあがって。何か食べる物作るわ」
ドアを開けて玄関や部屋の灯りをつける。
「あー…そんなん別にしなくていいんよ。」
珍しく気まずそうにポーランドはそう言って、冷蔵庫を開けていた私の手を止める。
「でもポーランドお腹空いてるんじゃない?」
「それはライナも一緒やろ?こんな遅くまで仕事しとったんやからオレよりライナの方が疲れてるに決まっとるし。…簡単なやつでいいんやったらオレが適当に作るし、ライナはシャワーでも浴びてきたらいいんよ。」
「でも……」
「いいから!」
ポーランドはためらう私を無理矢理バスルームへ向かわせる。仕方なく私は彼の言う通りにすることにした。
気心の知れた相手なので、今更彼に対する不信感はない。周りにはわがままだと思われているかもしれないけれど、彼はああ見えて女性に対してはかなり紳士的だ。少なくとも一緒にいる時はいつも私を最優先に考えて行動してくれる。それが一時的なものだったとしても、彼のそんな一面を知るのはかなり限られた人だけだと思うので、優越感にも似た嬉しさがある。
シャワーを浴びながらそんな事を考えて、彼の真意を探る。思い当たるのは私の誕生日くらい。口には出さなかったけれど、たぶん当たっているだろう。そう決め込んでしまうと、さっきまで抱えていた憂鬱な気持ちはどこかへ消えていて、彼の作る夕食を心待ちにしている自分に少し呆れた。
そうと決まれば私も彼の格好に合わせる必要がある。
私はバスルームを出て自室へ向い、身支度を整える。選んだドレスは淡い水色。それからドレスと同色のリボンと軽い化粧をした。
リビングへ行くと、私を見たポーランドは「さすがライナ、ちゃんとわかっとるやん」と呟いて微笑んだ。私の推測は間違っていなかったようだ。
テーブルには新しいクロスが敷かれていて、食事の準備が整っていた。どこから探してきたのかわからない花瓶に花も生けられている。カサブランカとかすみ草、どちらも純白で綺麗だ。ピンクやオレンジといった可愛らしい色合いを好む彼が、時々こういうギャップを見せてくれるのは計算されたことなのかもしれない。
それでもこの状況に新鮮な気持ちを与えてくれることは確かで、ただ食事をするだけなのに妙にドキドキしてしまう。
「ライナ、ワイン飲むやろ?」
彼の言葉に頷くと、冷やしてあった赤ワインを注いでくれた。
ふと時計を見るともう日付は変わっていた。ポーランドは最後の料理をテーブルに並べると「味付けとか、オレんち風で悪いんやけど…」と言いながら席についた。
「もう気付いとるのは知っとるんやけど…ライナ、誕生日おめでとうだしー!!」
ワイングラスを持って乾杯しながらポーランドは私の誕生日を祝ってくれた。久しぶりに飲むワインも彼の手料理もとても美味しかった。
食事の後にベッドへ流れ込むのは最近の私たちの間ではパターン化している。例に漏れず、今回もテーブルに並べられた料理を堪能してから私とポーランドは寝室へ移動した。そしてベッドサイドにウォッカやつまみを置いて映画を見たり話し込んだりするのだ。
酔っているのか、時々ポーランドは甘えるように抱きついてきてキスをしたりする。お菓子ばかり食べている彼のキスは甘い。
「んっ……ちょっ、ポーランド酔ってるの?」
「オレが酔っとるわけないやん」
そう即答されたけれど、酔ってる人は大抵「酔っていない」と言うものだ。
「もう…」
本当に彼はギャップが激しい。かわいいもの好きで横暴だったりする時や、さっきのようにちょっとかっこよかったり、今みたいに子供のようだったりする。結局私も彼の幼なじみ同様、彼に甘いのだ。
「ねぇ、どうして今日うちに来てくれたの?」
会った時と同じ質問をしてみる。今の状態なら彼の本音がきけるに違いない。
「…そんなんライナの誕生日だからに決まっとるやろ。」
「前の晩から会う必要があったの?」
「だってオレがせっかく祝うんやから、一番に祝いたかったんよー。…日付変わる時に一緒にいるのが確実やしー」
それにロシアには負けたくなかったんよ、と付け加えてポーランドはそのまま寝てしまった。私は嬉しくなって、彼の額にそっとキスをして「ありがとう」と小さな声で言った。
きっと彼には聞こえていなかっただろう。それでもいい。まどろみの中にいる彼を見ていると、不思議と幸せな気持ちに満たされた。
ついさっきまで気付かなかったけれど、寝室にもリビングのテーブルと同じ花が飾られていてカサブランカの香りが漂っている。そんな香りの中夢を見るポーランドの隣で、私も幸せそうに眠る彼と同じ夢が見られたらいいのに、と思いながら目を閉じた。
fin.
***
タイトルはポーランド語で「誕生日」。
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