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「リト」
ねぼけまなこで起きてきたポーランドはいつになく不機嫌な顔をしている。その表情は怒っているというよりは悲しみに近い。
「おはようポーランド、朝ごはんにしよっか。」
できるだけ明るく振舞うのがやっとで、オレはあえてその事に触れない。ポーランドの気持ちは痛いほどわかっている。だから彼の気を少しでも紛らわせるために手の込んだ朝食を今日は作った。
「ん…」
どうしようもない事だとわかっているから、ポーランドも八つ当たりしないのだろう。大人しくテーブルにつくと、オレが並べた料理を睨む。「何飲む?」ときくと、「コーヒー」と表情も視線も変えずに答えた。オレは甘いのが好きな彼のために砂糖をたっぷりと入れたコーヒーを手渡した。黙ってカップ受け取ったポーランドは、それをそのまま口元へ運び一口飲むと、大きなため息をついて窓を見る。
「雨、止まないんやね……」
「うん…」
昨日からくずれた天気は当分変わりそうにない。天気予報も明日まで雨という予報だ。
「きのこ狩り行きたいけど…やっぱ無理なん?」
「うん…この雨じゃ無理だね。」
窓の外の雨を見ても、ポーランドはオレの口からその言葉をきくまでは諦めきれないようだった。言って現実になるのならいくらでも「きのこ狩りに行けるよ」と言ってもいい。きのこ狩りは何事もほどほどにしかしない彼が率先して行う数少ない農作業だった。たぶんポーランド自身は宝探しのような感覚で楽しんでいると思うけれど、昔から秋のきのこ狩りをとても楽しみにしているのをオレは知っている。だからできることなら連れて行ってあげたいけれど、天気をどうこうするなんてできるはずもない。残念だけど今日は諦めるしかなさそうだ。
「…まぁこればっかりはどうしようもないしー」
「ポー…」
ポーランドの表情は言葉とは裏腹で諦め切れていない。こんな顔見るくらいなら八つ当たりされた方がましだと思いながら、オレはポーランドと朝食をとった。


「なぁ、リト」
朝食を終えてソファーでぼーっとしていたはずのポーランドが突然後ろからオレに抱きつく。
「ポーランド…!ど、どうしたの?」
食器を洗っていたオレは思わず声を上げた。振り返ろうにもかなり強い力で抱きしめられているので、それ以前に苦しさがあった。
「ポー、ちょっと苦しいよ…。一体何してるのさ」
一分くらいの間の後、ようやくポーランドはオレを解放してくれた。
「んー…ちょっと祈ってたんよ。」
「お祈り?」
ポーランドの祈る姿ならもう何度も見ている。でも、誰かを抱きしめながらのお祈りなんてきいたことがない。
「…何を祈ってたの?」
ちょっと機嫌の良くなったポーランドを見て、何かを企んでいるような気がしたけれど、とりあえずその内容をきいてみる。
「そんなん雨が止むようにって祈るに決まってるしー!」
「え…きのこ狩りまだ諦めてなかったの?」
「諦めるわけないし!っていうか、きのこ狩りに行く事は決まっとるんよー。少しくらい雨に濡れても気にせんし。でも土砂降りはさすがにオレもイヤだし…少し雨足が弱まれば行けると思うんよー。」
きのこ狩りに行くのは決定事項なんだ。それならさっきまでの暗い表情は一体何だったんだろう…そんなことを考えながら「…なんでオレに抱きついたの?」と、オレはもうひとつの疑問を口にする。
「んー…抱きしめながらお願い事すると、その願いが叶うんよー」
そう言いながら屈託なくポーランドは笑った。そんなの初めてきいた。また新しいルールなのかな…?
「何それ…オレが頼まれているみたいでちょっとプレッシャーなんだけど。それに雨を止ませる力なんてオレにはないよ…。」
「んー、頼ってるっていうかーリトが行くって言ったらきのこ狩りは今すぐにでも行けるんよー」
ああやっぱりオレにプレッシャーを与えることが目的なのかと思いながら、「雨足が弱まったら行こうね」と、遠出をしないことを条件にきのこ狩りに行くことを約束した。甘いって自覚はあるけれど、塞ぎこんでる姿を見ているよりは笑顔でいてほしい。軽い自己嫌悪と喜びの狭間にいるオレを、「やっぱリトは話がわかるしー」とポーランドはおだてた。そんなポーランドの祈りが届いたのか、午後にさしかかる頃に雨はぴたりと止んだ。時々雲の切れ間から青空ものぞくけれど、またいつ降り出してもおかしくない曇り空が広がる。
「リト、オレってすごくね?」
そう言いながらポーランドは早くきのこ狩りに出かけようとオレを急かす。
「うん、すごいね。」
ポーランドと約束した手前、雨が降りそうだからきやっぱりのこ狩りは止めようなんてオレには言えるはずもない。
動きやすいレインコートと着替えを準備して、オレたちは車で近くの山に向った。


ポーランドがとっておきの場所があると言うので、その付近に車を停めて山に入る。いつ雨が降り出してもおかしくない天候を気にしながら、あまり遠出しないようにポーランドに念を押した。
雨上がりがきのこ狩りに最適というのはたぶん当たっているのだろう。採りつくされていてもおかしくないような歩道のすぐ脇でも大きなきのこが生えていた。
「すごい……!」
「ここは穴場なんよー」
ポーランドはそう言いながら、持っていた籠にどんどんきのこを入れていく。
彼のきのこ狩りに対する熱意は並大抵じゃない。それは十分わかっていたつもりだけど、こんな光景を目の当たりにすると納得がいく。たくさんのきのこが取り放題という状況は誰だってわくわくする。オレもしばらくはポーランドの様子を見ていたけれど、いつの間にかきのこを採るのに夢中になっていた。
「リト、雨降ってきたし」
「…ホントだ」
不覚にもポーランドがそう言うまでオレはその事に気付かなかった。腕時計を見ると二時間近く山の中にいたことを示している。籠いっぱいのきのこは採れたけれど随分山奥に来てしまったから、ここから車に戻るだけでもかなりの時間がかかるだろう。
「きのこもたくさん採れたし、そろそろ帰ろうか」
「うん…」
了承の返事をしてもポーランドはその場から動かない。段々と強くなる雨の中、空をじっと見上げている。「ポー?」
不思議に思って声をかけても返事はない。どうしたんだろう、今日の目的は果たしたはずだ。早く帰って採れたてのきのこを調理してくれと言われると思っていたのに。
そんな事をオレが考えていると、急にポーランドが正面から抱きついてきた。今朝のようにぎゅうっと腕に力を込められる。
「ポー、どうしたの急に。」
荷物を持っていたオレは、ポーランドを引き離すことも抱きしめ返すこともできなかった。
「……抱きしめながらお願い事をすると、願いが叶うんよ。」
そう言ってポーランドはオレの胸に埋めていた顔を上げると、不敵に笑った。
「またそれ?…願い事って何なの?」
「しよ、リト」
ポーランドのその言葉にオレは耳を疑った。頭で理解するよりも先に「え……?」と、反射的に口にする。頭で認識した後も、できれば聞き間違いであって欲しかったという気持ちが拭えない。どうしてこんな展開になるんだろう。
「最近会っとらんかったやろ?だから久しぶりにしたいんよー」
「ポーランド、まだ夜にもなってないよ?」
「そんなん関係ないし!」
「少しはそういうの気にしようよ…」
「リトはオレのお願いきいてくれんの?」
ポーランドは頬を膨らませたままオレを見上げる。確かに天気と違ってオレが叶えられる願い事だけど、今すぐにと言われると色々と躊躇ってしまう部分がある。
「…雨強くなってきたよ?」
「オレは気にせんし」
「っていうか家に帰ってからじゃダメなの?」
「今がいいんよー」
とりあえず家に帰るのが先決だと思って話をそらそうと試みたけれど、ポーランド相手では通じるわけがない。
「…こんな場所でするのオレは抵抗あるんだけど」
「……じゃあキスでええよ。」
すがるようにオレが言うと、ポーランドはそんな代案を出してきた。
「え…」
「何、キスもできんの?」
眉をひそめながら冷たい視線を向けられる。
「キ、キスくらいできるよ…!」
何度もしたことあるんだからキスくらいさっさとして帰ればいい、そう思った。
でもこの事態に意外なほど困惑しているのが自分でもわかる。それはポーランドにも感づかれているようだった。背中に回されていたポーランドの手が、こわばるオレの腕の先までゆっくりと辿る。そのまま絡めとるように指先を解すと、オレの持っていた荷物を全て落としてしまった。
「ポー?」
「なぁ、リトはオレのお願いきいてくれんの?」
今度はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、さっきと同じ言葉をもう一度言う。すぐにでも叶えられるはずの願い事をどうしてオレは叶えてあげられないんだろうと思いながら、荷物から解放された腕をぎこちなく動かしてやっとの思いでポーランドを抱きしめた。
「…なんか、とっても恥ずかしいんだけど。」
「誰も来ないし平気っしょ。」
そう返されて言葉を詰まらせたオレを見たポーランドは「リト顔真っ赤で超うけるしー」と笑った。でもこの気恥ずかしさの正体はオレがポーランドを好きというだけの理由じゃない。たぶんオレが思っていた以上にポーランドがオレを信頼してくれることが嬉しかったのだと思う。いつだって自由に行動するくせに、肝心なところだけオレの意見を仰ぐ。今日だって勝手にきのこ狩りに行くことだってできたはずなのに。
そう認識するとますます照れくさい気持ちになる。
「ポーランドあの…」
言いかけて、突然口を塞がれた。
「んんっ……って何すんの!」
「リトがしないからオレからちゅーしただけだしー」
どちらからかということを除いて結果だけ見れば目的を果たしたポーランドは満足気な様子だ。
「いつまでたってもオレがキスしなかったのは認めるけど、だったら最初からポーランドがキスすればよかったんじゃ…」
「それじゃダメなんよー」
「え…?」
「まだオレの願いは叶っとらんしー」
そう言って満面の笑みでオレに抱きついてくる。たぶんまたお願い事でもしているのだろう。ポーランドは随分と長い間オレの胸に顔を埋めていて、今までよりも念入りに祈っているようだった。
おいしい晩御飯やお菓子が食べたいってレベルの願いなら今度はちゃんと叶えてあげよう。そう心に決めて、ポーランドの頭をゆっくりと撫でながら「今度は何をお願いしたの?」とオレは尋ねた。



   fin.

***
 「リトアニアミレニアム」に投稿したもの。テーマは「実りの秋」。
タイトルの意味はリトアニア語で「雨」。

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