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※文中に出てくる音楽の話は管理人の中途半端な知識によるものなので、鵜呑みにしないで下さい。
2月半ば、世間ではナターレを控えてどこへ行っても景気良さげにこの時期だけのイルミネーションで華やかに飾り立てられ、皆妙に浮き足立っている。
例に漏れずやけにめかし込んだカスに食事に誘われた。機嫌のいいカスに違和感を覚えたものの、任務開けの連休のせいだと思い特に指摘はしなかった。オレ相手にその辺のファーストフードに行くわけはあるまいと気まぐれについて行くことにした。
カスに連れて行かれたのは郊外にある小さなリストランテだった。なんでも二日間限りのマグロづくしのコースがあるらしい。オレを誘っておいてカスはマグロに夢中だ。
まぁいい。オレよりマグロをとった報いは帰ってからたっぷり受けてもらおう。
そんなオレの画策をよそに、カスの目的が食事だけではなかったことをすぐに思い知らされた。
リストランテを後にし、偶然通りかかった風を装ってオレはカスに小さなコンサートホールに連れ込まれたのだ。
何が「ボスさん、ピアソラだってよぉ!ちょっと覗いてみねぇかぁ!?」だ。懐に忍ばせたそのチケットはなんだ。明らかに覗く事はあいつの中で決定していた。
ピアソラときいて思い浮かぶのはチェロの演奏で有名になったリベルタンゴくらいだ。南米の作曲家はあまり聞かないので詳しくないが、確かイタリア移民のバンドネオンというアコーディオンに似た楽器の奏者でタンゴやミロンガといったアルゼンチンの音楽とクラシックの融合を図った人物というイメージしか持っていない。
こいつの趣味はいつの間にかピアソラやヒナステラまで広がっていたのか、それともあまり聴く機会のない音楽を単に聴いてみたかっただけなのかは定かではないが、いつものコンサート予習がなかったのでおそらく後者だろう。
なじみのない激しいものと追悼のような静かな曲で構成された音楽だった。
二拍子のリズムは緊張感を伴うもので、アクセントの場所が時々変わり、初めて聴く者でも十分に引き込まれる。
演奏形態はタンゴでは基本的なバイオリン、バンドネオン、ピアノ、コントラバス、ギターの五重奏で、なじみのあるオーケストラとは異なるせいか、おそらくこのホールのほとんどの客にとっては新鮮なものであっただろう。この演奏楽器の構成には不思議なことに打楽器は含まれていない。それにも関わらず、これだけリズミカルな音楽を奏でられるのだからたいしたものだ。
演奏者の口頭解説では演奏された曲は「天使四部作」というピアソラの代表的な作品らしい。序章から始まり、天使のミロンガ、天使の死、天使の復活というタイトルがついている。隣のドカスは三番目の「天使の死」で拳を握り締め目を輝かせながら演奏に魅入っていた。激しい曲調に相当昂っていたようだ。
これと対になるような形で「悪魔三部作」という曲も演奏していた。これも「悪魔」と冠したタイトルから成る曲だが、まがまがしい雰囲気ではなく、天使四部作に似た美しい見ロンが形式を組み込んだものだった。おそらく悪魔とは堕天使のことなのだろう。その中でも派手で不協和音の目立った悪魔のタンゴという曲が派手好きなカスの興味を引いているようだった。
天使四部作は幻想的でおとぎ話をきいているような感覚に陥る。曲調や全体の完成度はこちらの方が高いのだろうが、個人的には欲望を覚えて堕天した悪魔三部作の方が味があってオレの嗜好に合っていた。
他にもピアソラの曲が数曲演奏され、コンサートは幕を閉じた。
カスはオレのように呑気に思考する余裕もなく、獲物を見つけた獣のように目を輝かせ、瞬きするのも忘れてひたすら舞台を見つめていた。すっかりピアソラの虜になったのだろう。
おまけにアンコールが「Escualo(鮫)」という曲だったため、近い将来こいつの中でピアソラブームが来ることは間違いないと確信した。
個人的には悪くないというのが率直な感想だった。聞きなれないリズムや曲調にそんな印象を持つという事は、聞き込めばクセなる要素を持っている。しかも根底にあるのはラテンのリズムだ。気に入らないわけがない。
だが、そんな事をこのドカスの前で言えば、またこいつの趣味に巻き込まれる事は必至だ。
聴いてみるのはいいが、むやみやたらに演奏会に付き合うよりも、こいつが一通りその音楽や作曲家を理解してからの方が質の高いものが聴ける。
そこまで考えた時、ふと「なぁボス、今度南米に行かねぇかぁ?」と話を振られた。相変わらずわかりやすい奴だ。南米なんて大きなくくりで遠回しにきいてねぇで素直にアルゼンチンに行きたいと言え。
「行かねぇ。当分はてめぇ一人で行け。南米の任務は全部回してやる。」
迎えの車に乗り込みながらそう答えれば、「ボスも気に入ったみてぇだなぁ。…了解だぁ、オレが厳選していいやつ聞かせてやるぞぉ!」と、都合のいい解釈をして意気揚々とそう言い放つ。
何も頼んでいないのに勝手に張り切るカスを横目に、オレは今晩ベッドで鮫をどう調理してやろうか考えていた。
fin.
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