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初めてそれを知った時、正直目の前が真っ暗になった。
だってそれは要らないものだったから。祝福される存在などではなかったから。

「堕ろす」
それだけ呟いたオレを医者は訝しげに見た後、中絶手術がどれだけ負担を強いるものなのかとかその残酷さを説いた。それを表情を変えることなく聞き流して、オレはもう一度同じセリフを吐いた。オレは暗殺者なのだ。それが自分の子供であったところで今更人殺しに躊躇するような人間じゃない。
それが二度目、三度目ともなると医者や看護士の目は明らかに汚いものを見る目に変わった。

確かに世間一般から見れば、それは著しく倫理に反しているのかもしれない。しかも何度もそれを繰り返すという学習能力のないどうしようもないバカな女だと思っただろう。
最近は体の傷痕を見てDVの可能性まで疑ってくる始末だ。それは間違いではないのかもしれないけれど、はっきり言って余計なお世話だ。仕事の負担になるから子供は要らないだけで、この体中の傷だってその延長みたいなもんだ。人生をかけて守りたいものがオレにはあるからあんたたちの心配なんて邪魔なだけだ。
オレは金を払って診て貰ってるんだから、あんたたちも仕事と割り切ってオレの望み通りにしてくれよ、と最終的にはキレた。本当に嫌な患者だと思う。

だけどオレが最悪な女だったとして、そんなのあんたたちに関係ないだろう?
あんたたちはオレに心があるなんて思ってないんだろうけど、オレだって始めは一人でよく泣いた。何かにつけて子供の事を思い出して苦しかった。でもそんな事ばかりしてるわけにもいかないんだ。オレのいる世界はそんな甘ったれた気持ちでやっていける程優しくない。

妊娠した事を誰にもばれないように必死だった。特にボスにばれた日にはどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
プライベートのないような仕事でオレが体調不良を理由に休める期間なんてたかが知れていた。そんなに悪いなら医者に行けと言われたら終わりだ。気力だけでよく乗り切れたものだと思う。
堕ろす前もその後も女なんかに生まれた自分のこの体が憎かった。
ボスとの関係は何事にも臆する事のないボスの態度から周りにバレバレだった。幹部の連中はオレの実力を認めていてくれたので特に咎められるようなことはなかったけれど、ボンゴレ本部や雑魚どもの中にはオレが体でその地位についたと思う連中もいるらしく、バカにしたようなセリフを吐かれる事も少なくなかった。

どんなに頼んでもボスが避妊なんてしてくれるわけがなくて、薬は飲んでいるけれど効果を期待できるような生活はしてなかった。その結果がこれだ。
四度目の妊娠。医者はもうオレと目を合わせようともしない。



「てめぇ腹にガキがいるんだってな。…産め。」
ベルとの任務の時倒れて流産しかけた。どうせ堕ろすのに、腹のガキは一命をとりとめたらしい。
いつかばれると思っていた。けれど、オレを見下ろすボスがそんな事を言うなんて信じられなくてまだ夢を見ているのかと思った。
ずっとボスだけを見ていたからわかる。ボスの視線からは怒りなんて微塵も感じられなくて、それどころか戸惑いさえ抱いているようだった。
そりゃそうだよな。何の痛みも感じないあんたが親になる実感なんて持てるはずがない。
「ボス…あんた勝手だぞぉ。」
オレが今までどんな気持ちだったか考えた事あんのかぁ?そう言いたかったのに言えなかった。本当はいろんな事を言いたかった。でもオレがボスにばれないようにしていたんだから、その事をボスにあたるのはおかしい気がしてできなかった。同時にそれでもやっぱりボスにオレを解ってほしいとも思った。
どれだけ悩んだか、どれだけ苦しかったか、どれだけ痛かったか。
なぁ、あんたとのガキだぜ?可愛くないわけがない。
言い訳してるだけでいつだってオレは産みたかった。この手に自分の子を抱いてみたかった。
でもボスの元を離れてヴァリアーで人殺ししかした事のないオレが母親になるなんて考えられなくて怖くて。
堕ろす直前までごめんなって謝罪を繰り返してお腹を撫でて…どんなに優しくしたって結局オレは殺すんだ。これが今までやってきた事の報いなんだと、回避できたはずの殺人を正当化しようとしたりもした。

ボスにばれたら死ぬほど焦ると思っていたのに、いざそうなったらオレは不思議なくらい落ち着いていた。
今まで「堕ろせ」と言われるのが怖くてボスから逃げていたから、もう逃げなくていいんだとある種の安らぎがあった。もしかしたら産んでいいと言われるかもしれないという期待もあっただろう。とにかくどっちかなのだ。
オレはボスを好きだけれど、ボスがオレと同じ気持ちかはわからない。実の母親も義父もボスに愛情という名の呪いしか与えなかったから、自分が親になるなんて恐怖以外の何者でもないのかもしれない。ましてや子育てなんて考えた事もないだろう。
でも腹のガキの父親はボスだ。本当はボスにも知る権利があった。なのにオレが勝手に殺した。
「…産んでいいのかぁ?」
「何度も言わせるんじゃねぇ、黙ってガキを産め」
こんなオレが母親になっていいんだろうか。生まれたらボンゴレの新たな火種にならないだろうか。ボスは一緒に育ててくれるんだろうか。
「余計な事考えるんじゃねぇ。生まれちまえばどうにかなるもんだ。オレたちだってなんとかなってるだろうが。くだらねぇ事で悩むな。ガキ産むってのはオレができる作業じゃねぇんだ。てめぇは無事にガキを産む事に専念しろ。…それ以外の事はオレが何とかしてやる。」
なぁ、オレ夢見てるんじゃねぇよなぁ?いいのかぁ?あんたがオレをこんなに泣かせるなんて信じられねぇよ。
あんた一緒に病院に通ってくれるのか?ガキをあやしたりお風呂に入れたりおむつかえたりしてくれるのか?ガキが夜泣きしても怒ったりしねぇか?ガキを遊びに連れってってくれるのか?ガキの誕生日を祝ってくれるのか?
新たに湧き上がる不安を次々と口にするオレをボスは宥めながら抱きしめてくれた。こんなにくどく泣き縋ったのに一度も殴られなかった。



fin.

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