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夕方からポーランドの姿が見えない。

心配だったけど、見た目はともかく、いい年なんだからさすがに近所で迷う事はないだろうと思ってオレは夕食作りを進める。

「リト、ただいまだし~」
「ちょっ…ポー、どこ行ってたの?こんな汚れて…」
料理の手を止めて、空腹を訴えるポーランドをひとまずシャワーに向かわせる。

オレが夕食の準備を終えた頃、風呂から上がったポーランドは、今から何かの会議でもあるのだろうかと思うような格好でリビングに現れた。
「リト、お腹すいたしー」
そう言いながらテーブルの上に並んだおかずをつまむ。

ストライプの入った萌黄色のシャツ、濃い茶色のベストとスラックス、後ろでまとめた髪。腕時計もしているし第一ボタンの開いたシャツからはロザリオの鎖が見える。
一体今日はどうしたというのだろう。
普段より数段落ち着いたその装いにオレはしばらく言葉が出なかった。


「リト、なぁもう食べてもいいん?」
ポーランドに声をかけられて、やっと我に返る。
「あ…うん食べてもいいよ。ぼーっとしてごめん。」
オレもエプロンをはずしてテーブルに着く。

「リト、どうかしたん?」
食事を取りながら、さっきからオレがポーランドをちらちらと見ている視線に気付いたらしい。
「え…何が?」
「だって…さっきからずっとレのこと見とるし。何かあるん?」
「ポーランドって今から何か用事があるの?」
思わずオレはそう尋ねてしまった。
「今から?何もないけど、それがどうかしたん?」
「あ、いや…今日はちゃんとした格好してるから何かあるのかと思って。」
「これ?特に理由はないんよ。」
どうやらポーランドもそれに気付いて欲しかったらしく、いつもの不敵な笑みを浮かべ、嬉しそうに話す。
「リトが『たまにはちゃんとした格好しろ』って最近うるさいから、その通りにしてみたんよ。…どうよ?」
そう言うとポーランドは立ち上がってオレに見える場所でくるっと回ってみせる。オレが着たんだから似合って当然!的な態度。まぁ確かに似合ってるんだけどね。
女装とはかなりギャップがあるからとても新鮮な感じがする。

認めたくないけど、やっぱり格好良い。かわいいし格好良いって本当に何でも似合うって事。オレなんか何着ても普通なのに。
「うん、格好良いよ、ポーランド。」
そう言うとポーランドはすごく満足気な笑顔をオレに向けてくれる。
調子に乗るってわかっているけど、それ以外いい言葉が思い浮かばないから仕方ないよね。


夕食後、オレが食器を洗い終えかけた時ポーランドが後ろから抱き着いてきた。
「ポー?どうしたの?」
「オレ今日ちゃんとした格好やんな?だからリトもちゃんとした格好するしー」
「え、オレも?」
「オレがしてるんだからリトもしないと変だし!」

確かにつり合いはとれてないかもしれないけど、どうして家の中でそんな格好しなきゃいけないんだだろう。そう思いつつ、仕方なくオレは部屋に戻って着替えてくる。
「どう?これで満足?」
ポーランドに比べたら地味だけど、同じ緑系の服を選んでみた。
「じゃあもう寝るし!」
どうやらポーランドのメガネに叶ったらしく、文句は言われなかったけど、すぐにシャツの裾を引っ張られて寝室に連れて行かれる。
「え、ちょっ…オレ今着替えたばっかりなのにもう寝るの?」
「だってもうする事ないしー。」
「じゃあオレなんの為に着替えたの?」
「そんなんオレが見たかったからに決まっとるし。」
「え、何それ。」
「たまにはいいやろ?こういう格好のリトとしてみたかったんよ。オレだってこんな格好だし。」
そう言い放ってポーランドはオレのシャツの釦に手をかけながら耳のあたりを舐めてくる。

「あ…ポー……もう、勝手なんだから…」
そう言いつつも結局流されるオレもオレなんだけどね。

目先には口付けをするポーランドの姿。本当に今日は格好良いななんて今更実感する。
「ん…ポーランド……好き、だよ…」
「オレもリトのこと好きだし」
そんな言葉に耳を傾けながら、オレは目を閉じてポーランドに身を委ねた。



   fin.

***
タイトルの意味は「神の子羊」。レクイエムから。

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