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淡島は大きなため息をつきながら雲行きの怪しい空を眺めている。
私が見ただけでももう五度目のため息。
そのため息の理由はわかりきっていた。
今日、淡島にはどうしても欲しい物がある。でもそれは私には与えられないもの。
物よりも誰からもらえるかの方が重要だから、淡島の様子を見る限りではまだそれは手に入っていない事がわかる。
その様子を少しかわいらしいなと思いながら、私はくすりと笑った。
「冷麗、どーかした?」
淡島が私に気づいてそう話しかけてきた。
「あなたのため息がうつっちゃいそうだわ。」
私がそう言うと、ほんの一瞬だけ目丸くして「…オレまたため息ついてたのか?」と淡島は聞き返す。「ええ、とっても大きなため息だったわよ」と教えると、目を伏せて「そっか」と呟いた。
「まぁ気持ちはわからないでもないわ。今日はまだイタクと会っていないの?」
「会ったよ。何度もな。…あいつは今日が何の日かちっともわかってねーんだ。」
私の言葉の真意を理解して淡島はふてくされた子供のように言うと、また大きなため息をつく。
バレンタイン、頑張ったものね…。
イタクにお返しを期待するのは無理があると少し考えれば誰でも思う事かもしれないけれど、それは今日の淡島には当て嵌まらない。
どうしてもイタクからのお礼が欲しい、それは言葉でもいいのかもしれない。淡島がそんな気持ちでいっぱいなのが私にも伝わる。
「イタクったらダメね。」
「あいつはオレの事何とも思ってねーのかな?だから何度会ってもお礼も言われねーのかな?…ホント期待なんてするもんじゃねーよな…オレが馬鹿みたいじゃねーか。」
だんだんと小さくなっていく声。淡島が泣くんじゃないかと思った。
私は呆れて「…ホント、イタクったらダメね。」と同じことを言ってしまった。


「イタク、あなた今日が何の日かわかっているの?」
廊下で偶然見つけたイタクに思わずそうたずねると、「知らん。」とぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「今日はホワイトデーよ。あなた先月淡島からチョコ貰ったでしょう?何かお返しをしなきゃ。」
「…くれるって言われたから貰っただけなのにお返しするものなのか?」
何を言われているのかわからない、という表情でイタクはようやく足を止めた。
「それがマナーってものなのよ。それにあなたチョコが甘過ぎるって言って泣かせてたじゃない。お返しくらいしたら?」
私のその言葉にだけはイタクは敏感に反応して、「…あの後リベンジとか言われて五回もチョコ食わされたんだぞ、オレは。」と抗議する。
「あら、いいじゃない。きっと淡島はあなたにどうしても『美味しい』って言わせたかったのよ。ちゃんと言ってあげた?」
「あんな甘いもの、『甘い』としか言えないだろ。」
それ以外にどう答えればいいんだ?と言外に含ませてイタクは私から視線をそらす。
「本当は嬉しかったくせに、イタクったら素直じゃないのね。それともわざと言わなかったのかしら?そうすればずっと淡島はあなたにチョコを食べさせ続けるものね。」
「……」
わかりやすいその態度にやっぱり私は少し笑ってしまった。子供みたいなんだから…イタクと淡島、どちらもも意地になる性格なのかもしれない。
「今日が堂々とお礼できる日なのよ?何でもいいから淡島にお菓子あげてごらんなさいな。」
「なんでオレが…」
「絶対に淡島喜ぶから!」
イタクの言葉を遮るように私は強く言った。
私が取り持つような事じゃないことくらいはわかってる。でもね、私だってどうせ見るのなら仲間のため息よりも笑顔がいい。
今日の夜でも明日の朝でも構わない。淡島が目を細めて私に話しかけてくる事を考えるとやっぱり口元が緩んでしまう。ふと見上げた雲の間からもれる淡い光に暖かさを感じた気がして、まだ遠い春を想いながら私は黙り込むイタクの元を離れた。





***
この後イタクは急いで買い物に出かけて、淡島が女になった頃に呼び出してこっそり飴玉でもあげてたらかわいいなって思います。

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