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「…さっき嘘をついてらしたでしょう、リトアニアさん。」
会議で一緒になっても滅多に話す事のない日本さんに背後から話しかけられる。
オレの考えてる事なんてとっくにこの人は見透かしているのだろう。さっきからオレの返事を目を細めながら待っている。正直オレはドキッとした。どう返事をしていいかわからないし、この人はこれ以上オレに関わってこないとわかっていたからだ。
「日本さん、これはあの…」
とりあえず何か誤解を生んでいないか確認したくて名前を口にする。
「いえ、いいんですよ。あの方そうでもしないとあなたから離れてくれないのでしょう?私だって経験がありますから。」
そう言って日本さんは暖かい眼差しをオレに向けるとその場を立ち去ろうとした。
「あ、リトーこんな所にいたん!?探したんよー!!」
突然ポーランドがそう叫んで廊下を思いっきり駆け抜けてくる。目標は間違いなくオレ。「ポーランド、廊下は走ったらまずいって……うわっ!もう何なのいきなり…」
ポーランドは人目も憚らずオレに抱きつく。日本さんの視線が痛い。
「ポー、人前で何すんの…」
「んーそんなつもりはなかったんやけど、なんか勢いでこうなったんよー…あ、日本、いたん?」
「こんにちはポーランドさん。相変わらずお二人は仲が良いですね。」
日本さんはさっきまでの視線が嘘のように自然に笑う。経験の差だろうか、さすが自分で年寄りだと言うだけはあるなぁ。オレだったらすぐに平静を取り戻すことはできないと思う。
「抱きつくくらいは誰とでもできるしー。日本はしないん?」
「いえ、私は……」
答え終わる前にポーランドは日本さんに抱きついた。今日のポーランドは珍しく人見知りを発動しない。どうしたんだろう…。ポーランドに抱きつかれた日本さんは一瞬大きく目を見開いたけれど、イタリアさんやアメリカさんで慣れたのか、さほど動揺はしていないようだった。
「ポー、迷惑だよ。日本さんちはこういうの一般的じゃないんだから。」
「えーそうなん?じゃあどくしー」
オレがたしなめると、素直にポーランドは日本さんから離れようとした。
「ん…何なん、この香り。日本なんかいい匂いするしー。」
「え、私ですか?」
「うん、日本からするんよー。なんかジャスミンに近い感じなんやけど、もう少し甘いっていうかー…」
そう言いながらポーランドは一度離れた日本さんに再びくっつこうとする。
「ああ、それは月橘の香りですね」
「ゲッキツ?」
「ジャスミンとは別の種類ですが、英語ではオレンジジャスミンとかシルクジャスミンと呼ばれています。私の家では南の方でしか見られない植物で、夏にミカン似た白い花をつけます。月夜によく香ると言われていますが、雨上がりに香る月橘も風情があっていいですよ。」そう説明しながら、日本さんは持ち歩いていた月橘のポプリを見せてくれた。オレも匂いをかいだけど、洗練されているのにどこか甘くて、とても上品な香りだと思った。ポーランドはそれがいたく気に入ったらしく、さっきから目を輝かせて見ている。
「…そんなに気に入ったのなら差し上げましょうか?」
日本さんはそんなポーランドの様子を察してそのポプリを差し出す。
「え、これもらってもいいん?」
「ええ、どうぞ。もしもっと欲しいのなら今度送りましょうか?」
「ホントにいいん?じゃーお願いするしー」
ポーランドは月橘のポプリを受け取ると満面の笑を浮かべる。普段は人見知りのくせに、こんな時だけ愛想がいいんだから…。
「ポーランド、もらってばかりじゃ悪いよ…」
「えーでも日本がいいって言っとるしー」
「そういう問題じゃないでしょ。」
「あ、私への配慮はお構いなく。お気持ちだけで十分ですから。」
オレとポーランドが問答しているところへ、日本さんが申し訳なさそうに割り込んで言う。
「え、でももらってばかりでは…」
「あなた方のそういうやりとりが見れただけで十分ですよ。」
にっこりと笑ってそう言われると、さすがに引き下がるしかない。それにしてもオレとポーランドのやりとりで十分ってどういう意味だろう…。
「さすが日本、話がわかるしー!」
「もう、ポーったら…」
全てがうまくいっているポーランドは相変わらず上機嫌だ。
「リトアニアさん、本当にお気になさらないで下さい。…それにしてもポーランドさんの前だとあなたも随分と印象が変わるんですね」
「オレがですか?」
突然オレの話になって少し戸惑ったけれど、日本さんからオレはどういう風に見えているんだろう、と少し気にかかった。
「ええ、二人でいると本当によく笑っていらっしゃる。あなたが感情を露にするのはポーランドさんの前が多いようですね。」
「え…そ、そうですか?」
「そうですよ。傍から見ていると、お互いを本当に大切に思っているのがよくわかります。」
日本さんは子供か孫でも見るような眼差しでオレたちを見つめた。確かにオレはポーランドを大切に思っているけれど、ほかの人から見てもそういう風に見えるときくと、なんだかとても気恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
「それに…このポプリはポーランドさんが持っていた方がいいのかもしれませんし。」
そう呟くように日本さんは言葉を続けた後、お決まりの社交辞令を数回交わして立ち去ってしまった。
ポーランドが持っていた方がいいってどういう意味なんだろう。
「なぁリト、オレが来る前日本と何話してたん?」
ポーランドの言葉が唐突にオレの思考を遮る。
「話?えっと…あ、そうだ、日本さんがね、オレに話しかけてきたんだよ。さっき嘘ついたでしょう?って。」
「嘘?リト誰かに嘘ついたん?」
「嘘っていうか、方便かな…。ロシアさんにこの後ちょっと誘われて、それを断るために用事があるって言っちゃったから。」
「ふーん…」
あからさまに面白くない、という顔をされる。きいたのはポーランドなんだから、名前を出したくらいで不機嫌にならないでほしい。
「そんな顔しないでよ、全部お前のせいなんだから。」
「…オレのせい?どういう事なん?」
「ポーランドが急に会議終わった後あけとけって言ったんじゃない。」
ポーランドはそんな事を言ったことさえ覚えていない、というカンジでさらに訝しげな表情を浮かべてオレを見つめる。
「…そうやったっけ?」
「……お前がそうやって忘れるのもいつもの事だからもういいけどね。」
はぁ、と大きくため息をついて、オレは会議場を後にした。ポーランドもオレのあとをついてくる。オレの機嫌をとるような言葉を並べながら必死に笑いかけるのも最近はよくある事で、すっかり見慣れてしまった。別に怒っているわけじゃないからいつもの調子に戻ってもいいのだけど、こういう状況も満更ではないので、オレはしばらくポーランドのそういう表情を堪能しようかな、なんて考えながら歩く。オレにつきまとうポーランドからは月橘の香りが漂っていて、それがとても心地よかった。



   fin.

***
2009年4月~7月の通販につけてた小話です。
ちなみにこんな花です(画質悪くてすみません…)。↓
orangejasmine
月橘は日常的に見てたのですごく和風なイメージの香りの植物だなぁーと思っていたのですが、日本では奄美以南でしか見られないようですね…。
私の調べた限りでは、月橘の花言葉は「純粋な心、愛想のよさ」だそうです。

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