忍者ブログ
≪二次創作倉庫≫PC閲覧推奨
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

その日の任務は殆ど待機。深夜からターゲットがひとりになるのを待っての暗殺という王子に与えられたにしては地味なもの。こんな退屈な任務はレヴィあたりにでもやらせればいいのにボスは「たまには忍耐の要る事もやらねぇといざという時役に立たなくなる」なんてもっともらしいことを言う。まぁボスの命令ならオレだって何でもやってみせるけど。
ターゲットの予定がはっきりしていない場合、暗殺自体は簡単でもそのタイミングを掴むのが面倒臭い。暗殺されるような人間は堂々と出入り口から出入りするとは限らない。それはオレ一人では把握できないので、ターゲットのいる建物周辺を数名の部下を使って見張るしかない。
そんなただの見張り要員として連れてきた部下がターゲットと無関係の人間に見つかるというヘマをしたので、その処理に追われる羽目になった。
どさくさに紛れてターゲットはなんとかしとめたけれど、それは「暗殺」と言えるほど華麗なものにはならなかった。緊急連絡を入れたボスはそれでもいいと言ってくれたけれど、予定外の行動をしたオレは普段よりも長い報告書を提出しなければならなくなった。


「任務超時間かかったー。もう朝になってるしマジ最悪ー。」
オレはグチをこぼしながら談話室のドアを開ける。
さっきボスに報告書を出しに行ったのが9時。この時間なら任務の入っていない幹部は朝食を終えた流れで大抵談話室にいる。
「あら、ベルちゃんおかえりなさい。朝ごはん食べる?」
「んーちょっと我慢したらお昼だしいいや。それよりスクアーロは?」
「スクちゃんなら朝から部屋で寝てるはずよ。当分起きてこないんじゃないかしら」
ルッスーリアの口ぶりでは朝食にも顔を出さなかったらしい。
「寝てるって…あいつ体調悪いの?オレ昼から約束してんだけど」
「たぶん生理痛じゃないかしら。あの子不順気味だし結構重いのよねー」
今日のデートは無理だと思うわ、と言いながらルッスーリアは小さな小瓶をオレに渡した。
「何これ」
青い小瓶には「Benzoin」の文字とその下に学名らしき綴りを表記したシールが貼られている。
「エッセンシャルオイルよ。スクちゃんに持っていこうと思っていたの。ベルちゃん今からスクちゃんの部屋に行くんでしょう?それ渡しておいて」
「あー、この間スクアーロと話してたアロマってやつ?」
「そうよ~。スクちゃん痛みで眠れなくて辛いみたいなの。その系統の香りはまだ試したことがないはずだから気分転換にと思って。」
相変わらずオカマは細かいところまで気が利く。
「ん、わかった。…あ!あとで温かいスープとか作ってくんない?どうせあいつ貧血だろ?少しは食べさせないと」
「わかったわ。お昼頃に部屋に持っていくわね。」
その返事を聞き届けて、オレは自室に戻り、急いでシャワーを浴びてからスクアーロの部屋へ向かった。


「スクアーロ、起きてる?」
軽くノックをしてドアを開けてそうたずねると、しばらくして「ベルかぁ?」とくぐもった声が聞こえた。
ベッドの上で丸まっているスクアーロは視線だけを向けている。本当は返事をするのも辛いに違いない。
「今日…午後からお前と約束してたなぁ」
「そうだけど…お前今動けないんだろ?今日はいいよ、無理させたくないし」
「…ごめんなぁ」
「いーよ、謝らなくて。あ、これルッスから預かってきた。お前にってさ」
「何…あー、オイルかぁ。」
「これ、お前が試したことない類の香りだって言ってたぜ。香りとかで酔ったりしそうにないなら試してみていい?」
「うん、いいぞぉ。」
そう言って起き上がろうとしたスクアーロをオレがやるからと言って寝かせた。寝込んでいる恋人に世話を焼かせるなんて王子のプライドが許さない。
「やり方わかるかぁ?」と心配そうに見ているスクアーロに「何度か見てたから大丈夫だよ」と言いきかせる。
シンプルな形のアロマポットはルッスーリアに色々きいてオレがスクアーロに贈ったものだ。今はキャンドルの変わりに電気で温めるものや、ミストを発生させるものもあるけれど、火を見ていると落ち着くという原始的な理由でスクアーロはキャンドルを使用している。
オレに隠れてやってるタバコもそんな理由で始めていた気がする(その割には堂々とライターが置いてあるのだけど)。その類の嗜好品はできれば止めて欲しいんだけどな、と思いながら律儀に整理された棚から一通りのセットを取り出す。
サイドテーブルの上を片付けてアロマポットを置き、上部の皿に水を差し、その中に例のエッセンシャルオイルを数滴垂らしてティーライトに火を点ける。
しばらくするとオイルは温められて揮発し、室内に甘い香りが広がった。オレの知る限りではスクアーロが普段使用しているベルガモット系のそれとは全く異なるものだ。
スクアーロはその香りを確かめるようにしばらく目を閉じてから「甘いなぁ」と言った。
「これ、バニラっぽいけどちょっと違うね…」
「あれだぁ、この間食べた杏仁豆腐みたいな感じじゃねぇかぁ?」
「…そうかも」
それから少しの間黙って香りを楽しんでいたけれど、スクアーロの体調はまだ思わしくないようだった。
「ねぇ、まだどっか痛い?」
そうきくと、スクアーロは「腰のあたりがちょっとなぁ。」と静かに答えた。
いつもきいている腰周りの鈍痛。それはおそらく女性独特のもので、オレには共感できない。
「いつもこんなに酷かったっけ?」
「いや、最近夜通しの任務続きで生活リズム荒れてたからそのせいかもなぁ…でも今朝に比べたら大分落ち着いたぜぇ?」
なんでもないように振舞っているけれど、スクアーロは自分に対してストイックだからかなり我慢しているはずだ。ほぼ毎月のことだけれど、その痛みに対して何もしてやれない不甲斐なさは増すばかりだ。

しばらくするとルッスーリアが軽食を持ってきてくれた。
卵と野菜のスープはわざわざスクアーロのために作ったもの。黒砂糖が入っていてオレは甘く感じたけれど、スクアーロはなんともないみたいだった。生理の時期は味覚も麻痺しがちだからそのせいかもしれないと言っていた。

「そういえばよぉ、お前が見たいって言ってた映画、確か今日までだったよなぁ?オレのせいで見れなくてごめんなぁ。」
「え…?」
眠気で少しぼーっとしていたせいもあって、唐突に話しかけられて反応できずにいると、スクアーロはもう一度同じ事を言った。
構わないって自分で言っておいて、ちゃんとそういう事覚えられているとやっぱり嬉しい。逆にそんな風に謝られるくらい気遣われている事に不甲斐なさも感じるのだけれど。
「いーよ、映画なんていつでも見れるし」
それにお前と一緒じゃなきゃ見る意味がない。普段ならためらわずに言える言葉もくだらない自己嫌悪で出てこなかった。きっと任務明けのオレが一睡もしていない事もばれているんだろう。そんなオレの考えを見越しているかのようにスクアーロはまた「ごめんなぁ」と言った。
普段わがままなボスに付き合っているせいなのかはわからないけれど、時々そんなゆとりを見せつけられるとオレは気が気じゃない。こんな時くらい甘えて欲しいなんて思いながら本当にはそうさせてあげられていないオレはいつまで経ってもガキのままで、一生スクアーロには適わないのかもしれない。
「ベル?」
「あ、なんでもない。ごめん」
「ベル、お前も顔色良くねーぞぉ、大丈夫かぁ?」
「平気、任務明けでちょっと疲れてるだけだって。」
「…そっかぁ。」
確実にバレてると感じながら口先だけは平気なフリをする。昔からこんな風に小さな嘘をついては熱を出したりしてスクアーロやルッスーリアによく怒られていたっけ。
…ああ、オレってホント成長してないよなぁ。

「なぁスクアーロ」
「なんだぁ?」
「眠い。」
端的にそう言うと、スクアーロは一瞬何を言ってるのかわからないというような目をしたけれど、すぐに「一緒に寝るかぁ?」と笑った。
お互いに今日は不調だから何もできないけれど、この不思議な香りに包まれて肩を寄せ合って同じ夢を見れたら。なんて、朦朧とした頭で考えながら、すでに隣で寝息をたてているスクアーロに追いつくべく目を閉じる。キャンドルの火はもう消えていたけれど、睡眠不足のオレを夢路へと旅立たせるには十分な香りが寝室にはまだ漂っていた。



fin.


***
安息香:ベンゾインの和名

拍手[0回]

PR
色々
ブログ内検索
カウンター
バーコード
アクセス解析
Admin / Write
忍者ブログ [PR]