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温かい紅茶の香りが鼻についた。それはいつも自分が淹れる紅茶の匂いだ。

…どうしてその紅茶の香りがするんだろう。

それは誰かが淹れたからに違いないのだけど。


そして今の自分の状況を認識した時、リトアニアは慌てて飛び起きた。
「…痛…っ」
体中に鈍痛が走る。
「おはよう、リトアニア。」
リトアニアの隣で優雅に振舞う主の姿。リトアニアは全裸なのにロシアは暖かそうな服をしっかりと着込んでいる。

…ずるい。
まだ意識のはっきりしない頭でリトアニアはそう思った。

「紅茶…、いつもオレが淹れるのに…」
「君の分もあるよ。飲む?」
ベッドサイドに置かれたティーカップは二つある。リトアニアが黙って頷くと、ロシアはそのひとつを取ってリトアニアに差し出した。
紅茶が飲める程度に体を起こして一口飲む。

「…温かい。」
カップの中で揺れる波紋を見つめながらリトアニアは呟いた。

大抵この時間のロシアは昨夜とは別人のように優しい。だからリトアニアはまだ夢の中にいるような気がしてならない。なにしろ、リトアニアがこんな風に黙って頷いたり支離滅裂な言葉を口にしていても殴られたりしないのだから。

数分もすると、リトアニアの瞼が再び閉じかけてティーカップを持つ手が不安定に揺れる。ロシアはそっとリトアニアの手からティーカップを取り、再びベッドサイドに置いた。


いつの間にかリトアニアはロシアの体にもたれ掛かっていた。
「リトアニア、眠いの?」
リトアニアの頭を撫でながら尋ねる。
「ん…」

ロシアはそんな夢を結ぶ子どものようなリトアニアを見ていると、温かな気持ちに満たされる。ただ全てのものを壊したかっただけの昨夜の自分が嘘のようだ。

―「慈しむ」ってこういう感じなのだろうか。
そんな感情がまだ自分の中にあったことがひどく気恥ずかしい。


「…らしくないなぁ。」
ロシアはそう呟いて、もうしばらくリトアニアを寝かせてやる事にした。もたれ掛かっているリトアニアの体をゆっくりと横にすると、リトアニアはロシアの方へ手を伸ばして微笑んだ。

「…リトアニア?」
リトアニアは屈んでいたロシアの首に手を回して引き寄せると、そのままロシアに口付けをする。「んっ……」

一瞬何が起こったのが解らなかったが、誰かと勘違いしているのかもしれない、とロシアは思った。珍しく情熱的にそういったことをするので、ロシアに再び火が着くのにそう時間はかからなかった。
その「誰か」が気に掛かったが、こんな風に挑発的なリトアニアが見れたのだからまあいいかと受け止め、その唇を堪能する。
「あ…っや、んんっ…」
ロシアが首筋に優しく口付けをすると、まどろんだままのリトアニアは素直な反応を見せた。

「…これは君が誘ったんだからね。」
そう言ってロシアは行為を続けた。
「んっ…、ロシアさ……あ…」
ロシアの与えるそれはリトアニアには鮮烈な快感で、あっという間に篭絡される。


その媚態を眺めて満悦の笑みを浮かべながら、リトアニアが目覚めるのは当分先の事だろうな、とロシアは思った。



   fin.

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