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※マーモン女の子設定。
※ベルマモというよりほぼマーモンです。
※マーモンの過去捏造しまくっていますのでご了承下さい。
※ベル以外の男×マーモン描写有。
「…確かに。残りは期日までに僕の口座に振り込んでおいて。」
渡された紙幣を数えて懐にしまう。
僕の言葉を聞いた遣いの男は了承するとすぐに大通りに停めてあった黒塗りの車に乗り込み行ってしまった。
こんな廃れた街の路地裏に呼び出しておいてなんて態度だ。普段なら一流ホテルや飲食店での接待を受ける事の方が多いというのに。さっきのクライアントは僕を試していたらしく、本命じゃないターゲットをを最初に用意していた。実力を測られながらの仕事はバカにされているみたいでいらいらする。プロなら金額に応じた仕事をするのは当然じゃないか。正体を明かさないのはお互い様。それがいつ敵になるかわからない双方のためだ。
…こんな事なら報酬を上乗せして請求すればよかった。
無言のままその辺のゴミを蹴り上げ壁を思いっきり叩いく。若くたって、バイパーと言えばこの世界じゃフリーで名を馳せてる術者だ。その気になれば大概の情報はわかる。クライアントの素性だって暴けるという事が彼らは念頭にないのだろうか。驕っているわけじゃないけど、舐めた真似をしてくれたものだ。
「ねぇ、君」
背後から声をかけられて振り返ると二十歳前後の男がいた。
柔らかそうな茶髪、細いけれど鍛えられた体。この街の学生だろうか。
「大丈夫?」
先程のやりとりを見られた緊張から暫く黙って様子を伺っていると、男は「手、血が出てるよ、大丈夫?」と僕の不安なんか杞憂だとでも言いたげに心配してみせた。
「君占い師なの?」
「……術師だよ」
「術師?聞いたことないけど…占い師とは違うの?」
「…君には関係ないよ」
そんな曖昧なものとは違う。でもそれ以上僕は自分を語ることをしなかった。
「会ったばかりなのに余計な事きいてごめん。でも…その手痛そうだからお詫びに手当てくらいはさせて?」
男はそう言うと怪我をしていない方の腕を掴んで歩き出した。
いくら僕でもこんな得体の知れない男と行動を共にする気はない。けれど意思に反して体は素直に彼に従っていた。普段ならこんな愚かな事はしないのに、気付いたらこのあたりだという彼の部屋で手当てを受けていた。
「今紅茶しかなくて。ごめんね、口に合うといいのだけど…」
目の前のテーブルの上のティーカップに紅茶が注がれる。青いラインの入ったティーカップは一式しかなく、彼は別のマグカップに自分の分を注いでいた。
おそらく誰も尋ねてこないこの部屋は彼一人が暮らす最低限の生活道具しかないのだろう。だから僕のこの待遇は彼の精一杯のもてなしに違いない。
出された紅茶は大量販売している安物かと思ったけれど、意外と美味しかった。僕のそんな考えがわかったのか、彼は「僕の母親は紅茶にはうるさくてね」と小さく笑った。
「ねぇ、嫌なら答えなくていいからきいていいかい?」
「何?」
手当てしてもらった手前、無下にもできずに彼に視線を向ける。
「君はさっき術師だって言ったよね?それって具体的に何をするの?」
「…色々さ。クライアントの望むように事が運ぶようにあらゆる調整をするんだよ。」
もちろんその内容は法に触れるものが殆どだけれど、と匂わせて言うと、彼は苦笑しながら「占いはできないの?」ときいてきた。
「占いなんてあやふやな未来は視れないよ。僕は自分の能力を使って未来を確かなものにするのが仕事だからね。」
「僕の未来はわかる?」
「さぁ…叶えたい夢があるならそれは知らない方が賢明だよ。」
「そうかもしれないね」
彼は国費の留学生で、ダンスを学びにきているのだと言った。
「君はダンサーになるの?」
「…なれるといいんだけど」
まだイタリアに出てきたばかりで、祖国とのレベルの差についていけるか不安だ、と彼は語った。
彼が躍る姿を見たことはないけれど、国を代表して技術を学びにきているくらいだ、下手という事はないだろう。
「不安なら努力するしかないじゃないか。悩んでる暇はないだろう?」
少なくとも僕はそうしてきた、と言うと、彼は「そうだね」と哀しそうに笑った。
「夢が叶って、それからどうするんだい?」
「え…?」
「この国で学んで、有名になって…でもいつか祖国へ帰るんだろう?そしたら君は英雄だ。でも、それだけじゃないか。」
「それだけ?」
「帰国してもずっと踊り続ける生活なんだろう?それで満足かい?その後は?踊れなくなったら後継者を育てて…ダンス漬けの一生?」
彼は言われた事を反芻していたらしく、しばらくして「そんな風に言われたら、僕の人生はダンスに呪われてるみたいだね」と言った。
「呪いなんて言葉、そう軽々しく口にしない方がいいよ。でもそうだね、君の例えは的を得ている。僕もそうさ、一生術師として生きていくしかない。実力はともかく、体がついていかなくなったら死ぬしかないだろうね。…本当は夢を見つけていないのは僕の方だよ。渇望するような願いなんて特にないんだ」
紅茶を飲み干したら手当ての礼を言ってすぐにこの街を出よう、と僕は思った。これ以上彼と話していると自分の事を何もかも暴露してしまいそうな予感がした。
「君は、ずっとひとりなの?」
彼の部屋を出て行く時、ふいにそんな言葉を投げかけられた。
「そうだよ。誰かと一緒なんてよほどの信用がなきゃ無理だ。僕は人に恨まれるような仕事しかしてないからね。」
「名前、きいてもいい?」
「……バイパー」
「ねぇバイパー、また会える?」
「もう君と会う事はないよ。もしそんな事があったらそれは君が僕に仕事を依頼する時か誰かの恨みを買った時だ。」
さよなら、そう吐き捨てると彼はそれ以上何も言わなかった。
彼と再会したのはそれから約一年後、僕のターゲットとしてだった。
「Fortuna vitrea est; tum cum splendet frangitur.」
温かい、と思った。呪いをこの身に受けたからといって過去を捨てて何もかも新しくやり直せるはずはないのに、別の名を名乗って居ついてしまえば他人と暮らすのも案外心地よかった。外見に騙されてるわけじゃないくせにやたらと僕を構うボーダーのシャツを着た王子や派手なオカマ、口うるさい銀の鮫、ボス命の雷男、それらを統率する憤怒の君主。そんなばらばらの人間が危ういバランスを保ちながら暗殺という非人道的な任務にをこなしている。共同生活ではあるけれど、それなりに衣食住の保障はされているし、報酬も申し分ない。なにより一人で身の安全を確保しながら生きる必要がなくなった。こんな身の上で今更普通の仕事などできるわけがないから多少の問題に目を瞑れば理想的な職場と言える。
「マーモン、珍しくよく眠ってたね」
マーモン、と呼ばれてこれが夢じゃない事を思い知る。
僕はどうやら怠惰の王子の腕の中で寝ていたらしい。
「…夢を見てたんだよ、昔のね」
「昔?ヴァリアーに入る前?」
もぞもぞと動いても、ベルフェゴールは僕を腕の中から出そうという気はないらしかった。仕方なく、軽く伸びをしてしばらくじっとしていることにする。
「そうだけど…それよりももっと前さ。」
「もっと前?」
「そう、赤ん坊になる前」
そう答えると、思うところがあったようで、数秒経ってから「なんか辛い夢?」と探るようにたずねてきた。
「辛い?どうしてだい?」
「…泣いてたし。涙の跡まだ残ってるじゃん」
言い終わらない内にベルフェゴールの指がそっと僕の頬に触れる。
辛い?泣いてた?僕が!?
一瞬のうちにそんな事が頭の中を駆け巡ったけれど、かろうじてその動揺は態度に出さずにすんだ。
落ち着くために一度だけ深呼吸してぼんやりと談話室を仰ぐ。天井の豪華なシャンデリアが眩しい。
「……さぁ、辛いとかもう忘れたよ。でも嫌な夢だった。」
今の僕にはそれだけ言うのが精一杯な気がした。
彼は僕のターゲットだった。
努力が実ったのか元々の才能が見出されるようになったのかは定かではないけれど、とにかく彼はイタリア国内で名を馳せるダンサーになったようだ。少なくとも恨みを買う程度には。
クライアントは彼の失脚が望みだった。詳しい事はきかなかったけれど、彼が舞台に立たなければおそらく文句はないだろう。
方法は任されていたから僕は珍しく考えた。
怪我をするのと病気とではどちらがいいだろう。計画的に怪我をするように仕向けるのは案外面倒臭い。誰かに幻術をかけて襲わせる方法もあるけれど、治る程度の怪我なら意味がないし、その辺りの加減も難しい。病気はもっと大変だ。
別に殺す必要はないから精神を崩壊させるのもありだ。幻術なら難しいことを考えなくてもいいし、その後のケアもあまり要らないので一番楽だ。楽しい夢を見させるサービスだってできる。
決めかねていると、視界に彼が映った。
「やぁ、バイパー。また会えたね。」
初めて会った時とは印象が大分変わっていた。あの頃はあどけない少年の顔をしていたのに、随分大人になった。それが彼のいる世界も一筋縄ではいかないことを示している。
実力だけでのし上れる世界はそう多くない。実力はもちろんだが、それを発揮する場所まで辿り着くのが一番困難だからだ。それは運だったり汚い取引きの上に成り立ったりする。
彼はどちらだろう。一年で失脚を望まれるような人間が運だけでのし上ったとは考えにくい。
「僕は会うつもりはなかったんだけど」
量りかねてとりあえずそう答えると、彼は物怖じせずに僕に近付いてきた。
「…前に言ってたよね。次に会う事があればそれは君に仕事を頼むか誰かに恨みを買った時だ、って。」
「ああ」
「つまり僕は君に殺されるって事?」
今、彼に暴力を振るわれたら僕は勝てないだろう。それよりも先に幻術をしかけるしかない。
でも不思議と彼からそんなオーラは感じなかった。それでも逃げなければいけないはずなのに、なぜか僕は彼の視線に射止められたかのようにその場を動けずにいた。
「いいよ、でも少しだけ一緒にいてくれないかな?」
彼は僕の返事を待たずに言った。
「君は、死にたいの?」
「もうどうでもいいんだ」
「ダンスが嫌いになった?それとも他にしたい事でも見つかったのかい?」
「そういうわけではないんだけれど」
何かを諦めたような笑顔だった。
踊ることさえ止めてくれるのなら別の未来を用意してもよかった。彼を殺すという選択肢を選ばない事もできたのに、僕には彼は死にたがっているように見えた。ただ、不思議なことに、この依頼を断るという選択肢は僕の頭には浮かばなかった。
「Fortuna vitrea est; tum cum splendet frangitur.」
突然言われたラテン語にはっと我に返る。それはベルフェゴールから発せられたものだった。
「ベル、どうしてその言葉を?」
「さっきマーモンが寝言で言ってたよ?」
「…そう」
聞き覚えのあるその言葉は僕の夢の中のセリフだ。
「『運命はガラスでできている。輝くときに砕け散る。』ねぇマーモン、誰か忘れられない奴でもいるの?」
「……さっきまでは忘れてたよ」
そう、忘れていた。彼の名前は今も思い出せない。
「どんな関係?」
「初めての男さ」
「え…!?」
あっさりと返えってきた僕の言葉にベルは冗談抜きで驚いていたようだった。
「ベル…君、僕をなんだと思ってるんだい?」
「オレのお姫様」
自分が王子であることに疑問を持たないベルフェゴールは当たり前のようにそう言い放つ。
「君にきいた僕が間違いだったよ」
「ふぅん…運命ね。オレは信じてないけど」
僕の声を無視してベルフェゴールは話を進めた。
「僕だって死ぬ時にしか輝けないなんてごめんだよ」
こんな解釈は間違っているかもしれない。
でも彼は僕と再会したその晩に僕を抱いた。
特に抵抗はなかった。彼はダンサーとしてそれなりの名声を得ている。むしろ僕なんかでいいのかと思った程だ。
それくらい彼は優しくて温かかった。
殺さないでくれとも見逃してくれとも言わなかった。
僕を殺す機会なんて山ほどあっただろうに、それもしなかった。
生きるという辛い現実から彼は逃れたかったのかもしれない。
彼は翌日のコンクールで踊りきった後不慮の事故で死んだ。
僕はいつも通りの報酬を受け取り、それ以来彼のいた街へは行っていない。
「彼は…もう死んじゃったけどね」
問われてもいないのにそうこぼした僕の言葉に、「オレがいるからいいじゃん」と怠惰の王子は根拠のない返答をした。
「そうだね」
そう呟いて僕は瞼を閉じる。
きらきらとしたシャンデリアの残像が脳裏に浮かぶ彼の笑顔を消してくれないかと切に願った。
fin.
***
実はベルの無邪気さに救われるマーモンというのがテーマでした。
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