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「どうしたの、リトアニア?」
「…え?」
まだベッドの中で横になったままのリトアニアは、頭がぼーっとしていてロシアの問い掛けにすぐに反応できなかった。
リトアニアが眠い目を擦りながら上体を起こすと昨夜つけられた傷や痣がずきずき痛むが、それはもう慣れた痛みで、今更取り立てて騒ぐ程のものではなかった。慣れって怖いな、とリトアニアは毎朝思う。

「夢を…見ていました」
部屋の一点を無意識に見つめながらリトアニアは呟いた。
「ふぅん、どんな夢?」
子供でも相手にしているかのようにロシアは微笑む。
行為に及ぶ時はリトアニアの意思など存在していない扱いをするくせに、朝は憑き物が落ちたように優しい。もっとも、そんな二面性がリトアニアを益々混乱させているのだが。
「…有り得ない夢です。あなたとオレと…ポーランドが…仲良く…笑い合っている、そんな夢です。」
ひとつひとつの言葉を噛み締めるようにリトアニアは答えた。
「まぁ確かにそれは有り得ないね。」
ロシアは素っ気なく返した。
「……有り得ませんか?」
「有り得ないね。君も最初にそう言ったじゃない。」
リトアニアの問い掛けに、ロシアは間髪入れずに一蹴する。
「…そうですね…」
そう言いながら、リトアニアは少し哀しそうな目でロシアを見た。
「リトアニア?」
「いえ、何でもありません。」
しばらくの間ロシアはリトアニアを気にかけている様子だったが、結局何もせずにバスルームへ向かった。







「…ト、リト!!」
「……」
「リト!」
突然体を揺さ振られてリトアニアははっとする。
「…ポー?」
リトアニアの目の前にはポーランドの今にも泣きそうな顔。
「ポー、どうしたの?なんか近くない?」
リトアニアは感じた事をそのまま口にする。
「ちょ…リト大丈夫なん?いきなり倒れたんやけど…覚えてないん?」
いつになく真剣にポーランドが心配するので、リトアニアはやっと自分の置かれている状況を理解する。
「え…オレ倒れたの?なんかふわーって感じがしたのまでは覚えてるんだけど。」
ポーランドの家に遊びに来て、昼ご飯作って片付けをしていたはずのリトアニアいつの間にかはベッドに寝かされている。
「リト最近忙しかったん?だったら無理して来なくてもよかったんに…」
ポーランドは叱られている子供みたいに目を伏せながら言った。

「夢を見てたんだよ、ポー」
リトアニアはポーランドを慰めるように頭をなでなが話す。
「え…夢?今?」
ポーランドは何故突然そんな事を言い出すのか理解できずに、不思議そうにリトアニアを見つめる。
「うん、昔の…夢…だよ。」
「昔って、オレと一緒だった頃くらいなん?」
「ううん。それよりはずっと後だよ。」
ポーランドの顔が曇る。
それってロシアといた頃じゃん、とその表情が物語る。
「…んで、何でそんな幸せそうな顔して言うん?あいつといた頃がそんなに楽しかったん?」
ポーランドがロシアにいつも向ける表情でリトアニアを睨む。
「ポー、違うよ…」
今にも泣き出しそうなポーランドを見て、リトアニアは妙な罪悪感に駆られる。

「夢の中でもオレは夢を見ていたんだ。その夢の話をロシアさんにすると、そんな夢有り得ないって言われて…オレは少し…哀しくなるんだよ」
「なのにリトは…何でそんなに幸せそうな顔するん?」
「幸せそう?さぁ…何でだろうね…」
リトアニアは哀しく笑う。


思い出は美化されがちだから、きっと自分の願う形にデフォルメされてしまうのだろう。
もし戻れるなら…もっと賢く生きられるだろうか。
どこでどうすればあの夢のような世界になっていたのだろう…今のリトアニアには見当もつかない。

少なくとも目の前の幼なじみは何度やり直せても同じ事しかしないだろう。

考えても仕方のない事なのに…リトアニアは自嘲の笑を漏らす。


「でもリト、有り得ないって言われてる事のほとんどは…有り得るんよ。」
ポーランドは思い出したように呟く。
「だから…ロシアは有り得ないって言っとっても、いつか起こる事かもしれなくね?オレたちだって無理かもしれん事を今までやってきたんやし。」
「いつか…起こる?」
過去の有り得ない夢ではなく、いつか起こり得る未来かもしれないとポーランドは言った。
「…ふ、あははは……」
リトアニアはそんな未来を想像して思い切り笑った。
「な、何で笑っとるん?」そのテンションについていけずにポーランドは困惑する。
「だって…ポー絶対怒るよ、夢の内容きいたらさぁ…あははは」
リトアニアは他に誰も人がいないのに小さな声で夢の内容をポーランドに耳打ちした。
「……そんな夢絶対有り得んし~!!」
リト何でそんな夢見るんよー!とポーランドは真っ赤になって大声で叫びながら前言を撤回する。


リトアニアは愛しい幼なじみが傍にいる奇跡を噛み締めながら、しばらくその笑いを止める事ができなかった。



   fin.

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