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※ぬくもりの行方(波烏)が話の中間に入ります。



「明日はリトの作ったサコティス食ってー、ご飯食べてー、パルシュキつまみながら酒飲んで映画見たりチェスしたりするんよー。」
ポーランドがオレの家に遊びに来るという約束をしたのは二週間程前のことで、オレたちはその日を心待ちにしながら多忙な日々を過ごしていた。明日の午後には会えるというのにポーランドは待ちきれないみたいで、そんな事を言うためにわざわざ電話をかけてくる。
「そんなにたくさんできないよ…」
オレは電話越しに苦笑したけれど、ポーランドの言う事にまんざらでもなかった。オレだって明日ポーランドに会えることをとても楽しみにしている。久しぶりという事ももちろんあるけれど、何よりポーランドもオレと同じ気持ちでいてくれている事が嬉しかった。
「明日午前中で仕事片付けたらすぐリトんちに行くし。マジ楽しみだしー!」
「オレもポーランドに会うの久しぶりだから楽しみだよ。料理たくさん作って待ってるね。…ポーランド、時間大丈夫?」
もうすぐ日付が変わる。明日も仕事のあるポーランドはもう寝た方がいい時間だ。
「あ、もうこんな時間なん?そろそろ寝ないとオレ明日起きれないし。」
そんな事を言っても、ついさっきまで遠足前の子供みたいに明日の事を語っていたポーランドは中々寝付けないだろうな、とオレは思った。
最近のポーランドはとても忙しいみたいで、明日の休みをとるのにかなり無理しているみたいだった。実際、明日も午前中は仕事だと言っていたし、こうして電話するのも数日ぶりだった。お互いの休みが会わなくて随分長い間会えなかったけれど、専ら休みがなかったのはポーランドの方で、オレは明日一日完全にオフだ。本当はこうして電話している今も体力的には辛いのかもしれない。でもポーランドが強気に振舞うのはオレに心配をかけたくないという彼なりの配慮だと知っているから、オレもそれに気付いていないふりをするしかない。
「じゃあオレも明日に備えてもう眠るよ。」
「ん、おやすみリト。明日な。」
「うん、明日。…おやすみ、ポーランド。」
受話器越しに聞くポーランドの声がいつまでも耳に響いているような気がする。その余韻が残っているうちにオレは眠りについた。



翌日は普段通りに目覚めたので、軽く家の掃除をしてポーランドのためにお菓子を作るつもりだった。材料は昨日までに買い揃えてあったからいつでも始められる。
オレもポーランドもこの休日をとても楽しみにしてきたから、お昼を過ぎる頃には普段より気合の入った料理がいくつもテーブルに並んでいた。


「リト、来たしー!」
満面の笑みでポーランドはやってきた。仕事上がりにそのまま来たらしく、スーツ姿だった。
「いらっしゃい、ポーランド。料理色々できてるよ」
「え、マジで!?さすがリトだしー!オレ超お腹空いとるんよー」
「じゃあとりあえず上がって…ポー?」
ポーランドの胸ポケットのケータイが鳴る。その場で電話を受けるポーランドの表情から、それがオレにとって良くない内容なのだと予感がした。
「ごめん、リト。オレちょっと用事できたから…今日の泊りなしな。」
先刻とは一転して気まずそうにオレを見てそう告げる。
「え…ポー、どうしたの。今日の休みとるって最近あんなに頑張ってたのに…また仕事なの?」
不安からつい早口になってしまう。そんなオレを見てポーランドは心苦しそうに笑ってみせた。
「ん~…仕事じゃなくて私用なんやけど。ちょっと深刻みたいやから…マジごめんな。」
「ポー…?」
さっきまでの態度に偽りがない事はわかっている。ここまで急いで来てくれたんだからオレを欺くための嘘じゃない。本当に緊急事態なんだろう。
オレに対して誠実なのはとても嬉しいけれど、こういう真実は割り切りたくてもそう簡単にはいかない。ここは嘘でもいい、仕事だと言って欲しかった。
それにポーランドだって謝っていたんだから、意図してこうなったわけじゃない。オレだけが裏切られたような気持ちになるなんておかしな話だ。
「あとで連絡するし」
立ちすくむ事しかできなかったオレを見かねたのか、ポーランドは耳元でそう囁いて頬にキスをする。普段は見せないような後ろめたい表情で見つめられていることに気付く頃には、ポーランドは玄関のドアを開けて出て行くところだった。
「え、ちょっと…ポー!!」
ポーランドは振り返らない。
「もう…料理二人分もどうすればいいの……オレだって楽しみにしていたのに…」
オレはキスされた頬を押さえながらそう呟いた。

乱された気持ちを落ち着けるまでにそれから随分時間がかかった。

…オレ知ってるんだよ、ポーランドがオレ以外の誰かを見ているってこと。
一緒にいても上の空で、オレじゃない誰かの癖に合わせてる事があるって気付いてる?
心苦しそうな顔されたらオレが拒めないのを知っていて笑うなんてずるいよ。
傍にいるのに遠い。

こんな現実に気付きたくなんてない。でも逃げる事もできない。

今度会った時上手く笑える自信なんてオレにはないよ。お前じゃないんだからさ。
今日だって「行くな」なんて言えなくて、また戻ってくるかもしれないと思うと作った料理も片付けられない。
それでも会ってしまえばこんな気持ちはどうでもよくなるんだ。いつもそうだから。


それから夜遅くにポーランドが再び訪れるまでどうやって時間を潰したのかは覚えていない。
ポーランドが戻ってくる可能性は限りなくゼロに近かったけれど、期待していなかったわけじゃない。むしろそれはオレの切望する結果だった。
「……何しにきたの」
内心嬉しくてたまらないのに素直になれなくてそんな言葉しか出てこない。オレにしては珍しい発言だったせいもあって、ポーランドは一瞬目を丸くする。でもすぐに何事もなかったかのように「お前に会いに来たんよ」と言って笑った。
「…明日休みだし、やっぱりリトんちで泊まろうと思ったんよー」
気まずさに何も言えないでいると、ポーランドは言い訳のようにそう続けた。
「わざわざ戻ってきたの…?」
「そんなん当たり前だし!なぁ、オレあれから結局何も食べてないんよー。何か食べる物ないん?」
ふてくされているオレの疑問に「当たり前」なんて言葉を無意識に使えるポーランドはやっぱり確信犯なのかもしれない。ずるいなと思ったけれど、すぐに彼の要求に応えようとする自分がいる。
「あ、あるよ…!…温めて準備するから、ポーランドお風呂でも入っといて」
そう答えてオレは返事もきかずにキッチンへ向かった。
この際ポーランドが服を着替えている事や移り香の事なんて気にしないでおこう。彼が戻ってきた事実だけで十分じゃないか、と必死で自分に言い聞かせる。
「リト、今日はごめんな」
ポーランドはわざわざキッチンまでやってきてオレにそう言った。
「ううん…」
物分かりのいいふりをする事でしか彼を縛れない。
オレが何も言わずにいる事で彼の罪悪感を募らせられるのならそれでいいと思ってしまう。
こんな事を考えているオレが一番卑怯なのかもしれない。
浅はかなオレの気持ちに彼が気付いていたらどうしよう。それでもオレが言わないように、彼もきっと気付いていないふりをするんだろうか…?
あれこれ考え込んでしまうのはオレの悪い癖だとよくポーランドに注意されていたのを思い出して、めまいのように襲い掛かるやるせなさに少しだけ泣きたくなった。



   fin.

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