※波リヒ。ポーランドの女装とかあります。


「なぁ、お前他の服とか着ないん？」
「え…？」
とあるパーティー会場で突然そう話しかけられて振り向くと、そこには瑞々しいマスカットカラーのロングドレスを身につけ、不敵な笑みを浮かべた方が立っていました。
…確か名前はポーランドさん。
男性なのに女装するのが趣味のようで、パーティーなどでは今日のようにドレスをお召しになられているのも何度か見かけたことがあります。
「服、いっつも同じカンジの着とるやん。他の服着ないん？」
「他の服…ですか？」
ポーランドさんはオフホワイトのショールと胸元に輝くラインストーンネックレス、黒のロング手袋を身に付けています。アップスタイルに飾りつけられたサーモンピンクのオーガンジーフラワー髪飾りがとても素敵です。
リュスク感の漂うドレスは、ハイウエストなデザインで胸元のカシュクールとサテンの光沢が見る人に上品な印象を与えます。ウエスト部分にはアクセントのクリスタルビーズをあしらった刺繍がとてもきれいで、背中の編み上げリボンは扇情的な後ろ姿を演出しています。ウエストで寄せられたギャザーが裾のあたりで優雅なボリュームを見せて揺れていて、そこから覗く手袋と合わせた黒いミュールもよく見るとラインストーンがあしらわれていて、つま先までおしゃれに余念がないのがわかります。
とても男性とは思えないその艶やかさに、私はため息しか出ません。
私はといえば、普段着とさして変わらないようなワンピースのドレス。おしゃれが嫌いというわけではないのですが、こんな風にポーランドさんに尋ねられるというのはやはり手を抜いているように見えるのでしょうか…。
「まぁ何着ていようとお前の自由やけど、せっかく女の子なんだしかわいい格好したらええのに。」
さっきからきょとんとしている私を、ポーランドさんはいたわし気な目で見ます。
「…どのような服が良いのでしょうか。」
私は思い切って聞き返してみることにしました。こんなに素敵な方が私にそう仰ってくださるのなら、いいアドバイスがいただけるかもしれない。
「え？」
「ポーランドさんは…どのような格好が私に似合うとお思いになりますか？」
その問いに、ポーランドさんは私の頭からつま先までをしげしげと眺めます。
「んー…リヒテンはいっつも清楚な格好しとるやん？たまには大胆な格好してもええと思うんよ。ドレスやったらチュールドレスとか…あ、刺繍の入ったやつな。ミニでもイケるけどスイスがうるさそうやからミディアム丈くらいのやつがええんかなー。」
「チュールドレスですか…。」
すぐに具体的な答えが返ってきたのですが、私はポーランドさんの言葉を繰り返す事しかできません。
「チュールって重ねたらグラデーションぽくなってきれいやん？で、サテンのフロントリボンがあるやつだと質感の違いでかわいく着こなせると思うんよー。色は絶対ピンクな！派手すぎない薄いピンクがリヒテンには似合うんかなー」
「でも私…胸元の開くドレスはちょっと……」
楽しそうに語るポーランドさんには悪いと思ったのですが、私が少し口ごもるとその理由がわかったようで、いぶかしげな面持ちをなさいました。
「何…胸なんてなくてもええやん。オレもないしー。ありすぎるとドレスも普段着もサイズ合うのないから大変ってライナが言っとったし。」
「ですけど…」
ウクライナさんを引き合いに出されても、標準ほどもない私には想像できません。
「…そんなに気になるんやったら胸元にボリュームのあるデザインにするか、中から何か詰めるか、オレみたいにショールのつけ方工夫したりして隠せばええやん。方法なんていくらでもあると思うけど？」
私の悩みの解決案をあっさりと口にすると、ポーランドさんはその表情をほころばせます。
その優美な笑顔に私もつられて頬がゆるんでしまいました。
「そういえば…今日は落ち着いたトーンのドレスですね。」
それまでのポーランドさんは明るく可愛らしい感じの格好だったと記憶していますが、今日はとても優雅で洗練された印象を受けます。
「あ、わかるん？いつも同じだと飽きるから、今日は上品なカンジにしてみたんよー」
「ええ、今までお見かけした事のない雰囲気でとてもいいと思います。」
私の意見に頬を紅潮させたポーランドさんは、さらに熱を帯びて、今度は私に似合う履物やヘアスタイルについて語ります。
「あ…なぁお前誕生日っていつなん？」
「え？た、誕生日ですか？七月十二日です。」
思いついたように尋ねられて少し驚きましたが、私の返事をきいたポーランドさんは、何か面白いいたずらでも思いついた子供のように目を細めます。
「オレと同じ月やねー。じゃあオレがお前の誕生日にドレスプレゼントしてやるしー！」
「え、そんな…大丈夫です、ドレスなんて高価なものいただけません…！」
「誕生日プレゼントとしてオレが勝手にあげるだけなんやし、遠慮する必要ないやん。」
「そうでしょうか…」
「プレゼントやったらお前の口うるさい保護者に捨てられることもないやろうし、そのドレス着ても文句言われないやろ？…オレって超頭良くない？」
ポーランドさんは得意気に仰って同意を求めてきます。
「えっと、あの…お兄さまは……」
「じゃあお前の誕生日の十日後、オレとデートな！あ、もちろんオレが贈ったドレス着るんよ？ちゃんとそれなりの場所に連れて行ってやるしー。」
「と、十日後って、あの…」
私が口ごもっている間にポーランドさんはどんどん話を先に進めていきます。
「七月二十二日はオレの誕生日なんよ。だから誕生祝いとしてオレとデートするしー」
「あの…私がポーランドさんに色々連れて行ってもらうのはお祝いになっていなのでは…？」
「オレがいいって言っとるんやから、それでいいんよ。リヒテンは二十二日オレとデート！いいやろ？」
「は、はい…」
どういう事でしょうか…威圧されているわけでもないのに反論も意見もできません。
…結局私は七月二十二日にポーランドさんとデートをする事になってしまいました。
「…じゃあ約束だし！な？」
「え、あの……」
「約束」。そんな口実でポーランドさんは私に口付けをしてきました。…しかも唇に。
公衆の面前でこんな事されるなんて、お兄様に見られていたら大変な事になります。
不測の事態に私が立ちすくんでいると、「Do zobaczenia!」と言い捨ててポーランドさんは何事もなかったかのように去っていきました。
自分の唇に手を当てると、さっきまでの柔らかな感触を思い出して鼓動が早まっていくのがわかります。
熱にうかされたような私は、その軽やかな後ろ姿をただただ見つめることしかできませんでした。



　　　fin.

＊＊＊
。「HAPPY BIRTHDAY For July」に投稿したもの（リヒ誕2009）。ポーがナンパしているようにしか見えない。
リトが誰とでもフラグを立てられるように、ポーも何でもありな気がしてきた今日この頃。
このCPは需要が少ないだろうな…とは思っています。
「Do zobaczenia!」は「See you!」みたいなカンジで（正しくはない気がしますが）。

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