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「なぁリト、オレたちも探しに行かね?」
夏至祭の夜、唐突にポーランドはそう言った。
「…な、何を?」
あまりいい予感はしないけど、とりあえずオレはそう返した。
「羊歯の花。今夜咲くんやろ?」
「ああ、羊歯の花ね。…咲いてるかどうかはわかんないけど、そう言われているよ。」
夏至の日の夜に一瞬だけ羊歯の花が咲くという言い伝えがある。それを探しに行こうとポーランドは言っているのだ。
「リト、探しに行きたくないん?」
ポーランドはオレの乗りが悪いのが気に入らないようで、頬を膨らませた。
「別にそんなわけじゃないけど…」
昨日からポーランドはオレの家の夏至祭に参加すると言って遊びに来ていた。
いつの間にかオレの家の民族衣装まで仕入れていて、それを着て参加するんだと張り切っていた。それがどうして女物だったのか見慣れすぎて気にもかけなかったけれど、なるほどこういうわけか。
羊歯の花を探しに行くのは大抵カップルだ。まぁポーランドが今更そういう所を気にしているとは思えないから、もしかしたら単なる趣味かもしれないけれど。
「でもポー、まだやる事たくさんあるからそんなに時間ないよ。探しに行ってる人たちも少ないし…向こうで歌ったり踊ったりしている方が楽しいんじゃない?」
そこまで乗り気じゃないオレはさりげなく他の事を勧めてみる。
「オレはそれ探したくて夏至祭に参加したんよ。…リトが探さないならオレ一人で探すし!」
そう言ってポーランドはそっぽを向いて森へ行ってしまった。
「ちょっと、ポーランド!!」
さっきまで楽しそうに歌を歌ったり花輪を投げたりしていたのに、急にどうしたんだろう…。もっと早く言ってくれたらオレだってそのつもりで参加したのに。
まぁオレも拒否するような事でもないのに大人気なかったかなと思いながら、仕方なくポーランドを追いかけて森に入る羽目になった。
「ポー、待ってったら!」
「……」
ぴたっとポーランドの歩みが止まり、顔だけで振り返る。
「ごめん、ポー。オレも一緒に探すよ。」
「…最初からそう言えばいいし。」
ポーランドは珍しくばつが悪そうにそう言うと、何事もなかったかのようにオレの隣にぴたっとくっついてきた。
「ポーランド…もしかして怖かったの?」
「違うし!そんな事ないし!!…リトが早く来ないのがいけないんよ!」
「…うん、ごめんね。」
強がりだとわかっていたけど、これ以上仲違いはしたくないので、オレは謝るしかなかった。
気を取り直してポーランドの言っていた「羊歯の花」を探す。
探すといってもこれといって心当たりがあるわけじゃないし、必ずあるという保障もない。
オレたちはただ闇雲に歩いているに等しかった。
もうどのくらい歩いただろう。
こうなる予感はしていたけれど、案の定オレたちは帰り道がわからなくなっていた。
ポーランドは始めこそ機嫌良く歌ったり喋ったりしていたのに、今はもう口数もだいぶ減ってけだるそうに歩いているだけだった。疲れているんだろう、何かを探しているという感じはしない。
「ポー、大丈夫?眠いの?それとも疲れた?」
「…両方」
こんな所で寝るわけにはいかないけど、少し休むくらいならいいかなと思って、オレたちは足を止めた。座れそうな大きな石の上にオレは腰を下ろす。ポーランドは服が汚れるのがイヤだからと言って、どういうわけかオレの膝の上に座った。
「ねぇポーランド」
ポーランドが今にも眠りそうだったのでオレは話しかけた。
「…何なん?」
「どうして羊歯の花を探したかったの?」
「…別に。理由なんかないし。」
「嘘。じゃなきゃここまでしないでしょ。」
あるかどうかもわからない、しかも見たこともないものを探すなんて、目的がなかったら普通はしない。
「……誰かが言ってたんよー。羊歯の花探して一晩中森から帰って来なかったカップルは、何かやらしい事しとったんだって翌日皆に注目されるって。」
「…ポー、そんな事がしたかったの?それとも注目されたかったの…?」
その理由のくだらなさにオレは愕然とした。
羊歯の花を見つけた者は願いが叶うとか幸福になれるって言われてるから、てっきりそういう理由だと思っていたのに。
それじゃあ真剣に探していたオレが馬鹿みたいじゃないか…。
「や、別にオレはどっちでもいいんよ。何かそういうのも面白そうと思っただけで。オレだって羊歯の花が咲くなんて本気で信じとるわけやないし。…まぁ超キレイって言われとるから、見れるなら見てみたいとは思うんやけど。」
「…初めから目的は花じゃなかったわけね。」
すっかり気抜けしたオレは大きくため息をついた。今まで気力で耐えていた疲れが一気に押し寄せる。
「リト怒っとるん?」
ポーランドは体を反転させ、オレと向かい合う。
「オレはもっとロマンチックな回答を期待してたよ…。」
せめて理由さえまともだったら、こんなに精神的ダメージは受けなかっただろうに、とオレはやり場のない気持ちを持て余す。
「…羊歯の花探すなんて、夜出歩くための公然の言い訳に決まっとるし。」
こんなことしとるのオレたちだけじゃないはずなんよ、とポーランドはオレの肩に手を回して囁いた。
「ポー…」
ポーランドが宥めるようにオレの額にキスを落とす。
「リト……」
ポーランドがうっとりとした目つきでオレを眺める。それがとても可愛くて、思わずオレはポーランドを抱きしめた。
「リト…!?急にどうしたん?」
「別に。…期待してたんでしょ、こういう展開」
そう言ってオレはポーランドをこれ以上喋らせまいとそのまま口付ける。
「ん…」
今どこにいるかもわからないし、このまま歩き回ったって疲れるだけだ。だったらここで夜が明けるのを大人しく待つ方がいい。
そう思ってオレがそのまま行為に持ち込もうとしたその時だった。
「ん……リ、リト!あれ……!!」
突然ポーランドがオレの後方を指差しながら場にそぐわないトーンで話しかけた。
「え、何…?」
ポーランドが指差す方向を見ると、暗闇の中にぼうっとオレンジの光がいくつも浮かんでいた。
その光は動いていて、オレたちのいる場所からほんの数メートルの所を通り過ぎていく。
その光景にオレは見覚えがあった。
「あれ何なん?羊歯の花…?」
「あれはたぶん……蝋燭の光だよ。」
「蝋燭?」
「花輪の真ん中に蝋燭を取り付けて川に流すんだよ。」
向こうに川があってこっちに流れてくるって事は、オレたちは夏至祭の会場より下流の方にいるのか…。帰り道がわかったオレは内心ほっとしていた。
「リト、あれ近くで見たいし」
「…じゃあ行ってみようか」
オレはポーランドを膝から下ろして一緒に川まで見に行った。
暗闇を流れる蝋燭の光は幻想的でとてもきれいだった。ポーランドもそれに見とれている。
「きれいだね…」
「ん…こんな所で見れたのも全部オレのおかげだし。」
「もう、調子いいんだから…」
確かにポーランドが森へ入らなかったらこんな光景二人きりでは見れなかったかもしれない。そこは偶然とはいえ感謝してもいいかなと思ったけど、口に出すのはやめた。
蝋燭の灯った花輪が流れて行くのを最後まで見届けたら、間もなく夜が明けるだろう。今から会場へ戻れば一緒に焚き火を飛び越えたり、日の出を見たり、色々できるはずだ。
ポーランドは足が痛いとか眠いとか文句ばかり言うだろうけど、それも戻れば止むに違いない。ポーランドにとって真新しい事はまだあるはずだから。
「ポー、戻ろうか。」
「えー今から帰るん?オレ疲れたし…リト、背負って。」
「え…オレだって疲れてるよ……」
疲れたって言われるのは想定してたけど、背負うのはちょっと辛い。
「オレが疲れたのはリトのせいだし。羊歯の花が見れんかったのも眠いのも全部リトのせいなんよー。」
「……さっきと言ってる事変わってない?それにオレ何もしてないじゃない。」
「ごちゃごちゃうるさいしー。」
…なんかもういつものパターンだ。こうなったら流れは決まっている。
「ああもうわかったよ。背負えばいいんでしょ、背負えば。」
「最初から素直にうんって言えばいいんよー。何度も同じこと言わせるなだしー。」
オレがやけになってそう言っても、ポーランドは当然のようにオレに背負われる。
「はいはい……。疲れてるからって眠らないでよね。」
「わかっとるしー!」
いつもなんでもオレのせいなのは変わらない。
オレってポーランドの何なんだろう…。
でもわがまま言われるのも、こんな風に頼られるのも不思議と悪い気はしない。
まだ夏至祭は終わってないけど、来年もこうやって一緒に過ごせたら楽しいだろうなと思いながら、オレは帰り道を急いだ。
fin.
***
「リトアニアミレニアム」に投稿したもの。テーマは「夏至祭」。
trasognata(トラソニァータ):イタリア語で「夢見るように」
途中、あやうく年齢制限な展開になるところでした。リトに主導権を持たせるのって難しい…。
夏至祭の夜、唐突にポーランドはそう言った。
「…な、何を?」
あまりいい予感はしないけど、とりあえずオレはそう返した。
「羊歯の花。今夜咲くんやろ?」
「ああ、羊歯の花ね。…咲いてるかどうかはわかんないけど、そう言われているよ。」
夏至の日の夜に一瞬だけ羊歯の花が咲くという言い伝えがある。それを探しに行こうとポーランドは言っているのだ。
「リト、探しに行きたくないん?」
ポーランドはオレの乗りが悪いのが気に入らないようで、頬を膨らませた。
「別にそんなわけじゃないけど…」
昨日からポーランドはオレの家の夏至祭に参加すると言って遊びに来ていた。
いつの間にかオレの家の民族衣装まで仕入れていて、それを着て参加するんだと張り切っていた。それがどうして女物だったのか見慣れすぎて気にもかけなかったけれど、なるほどこういうわけか。
羊歯の花を探しに行くのは大抵カップルだ。まぁポーランドが今更そういう所を気にしているとは思えないから、もしかしたら単なる趣味かもしれないけれど。
「でもポー、まだやる事たくさんあるからそんなに時間ないよ。探しに行ってる人たちも少ないし…向こうで歌ったり踊ったりしている方が楽しいんじゃない?」
そこまで乗り気じゃないオレはさりげなく他の事を勧めてみる。
「オレはそれ探したくて夏至祭に参加したんよ。…リトが探さないならオレ一人で探すし!」
そう言ってポーランドはそっぽを向いて森へ行ってしまった。
「ちょっと、ポーランド!!」
さっきまで楽しそうに歌を歌ったり花輪を投げたりしていたのに、急にどうしたんだろう…。もっと早く言ってくれたらオレだってそのつもりで参加したのに。
まぁオレも拒否するような事でもないのに大人気なかったかなと思いながら、仕方なくポーランドを追いかけて森に入る羽目になった。
「ポー、待ってったら!」
「……」
ぴたっとポーランドの歩みが止まり、顔だけで振り返る。
「ごめん、ポー。オレも一緒に探すよ。」
「…最初からそう言えばいいし。」
ポーランドは珍しくばつが悪そうにそう言うと、何事もなかったかのようにオレの隣にぴたっとくっついてきた。
「ポーランド…もしかして怖かったの?」
「違うし!そんな事ないし!!…リトが早く来ないのがいけないんよ!」
「…うん、ごめんね。」
強がりだとわかっていたけど、これ以上仲違いはしたくないので、オレは謝るしかなかった。
気を取り直してポーランドの言っていた「羊歯の花」を探す。
探すといってもこれといって心当たりがあるわけじゃないし、必ずあるという保障もない。
オレたちはただ闇雲に歩いているに等しかった。
もうどのくらい歩いただろう。
こうなる予感はしていたけれど、案の定オレたちは帰り道がわからなくなっていた。
ポーランドは始めこそ機嫌良く歌ったり喋ったりしていたのに、今はもう口数もだいぶ減ってけだるそうに歩いているだけだった。疲れているんだろう、何かを探しているという感じはしない。
「ポー、大丈夫?眠いの?それとも疲れた?」
「…両方」
こんな所で寝るわけにはいかないけど、少し休むくらいならいいかなと思って、オレたちは足を止めた。座れそうな大きな石の上にオレは腰を下ろす。ポーランドは服が汚れるのがイヤだからと言って、どういうわけかオレの膝の上に座った。
「ねぇポーランド」
ポーランドが今にも眠りそうだったのでオレは話しかけた。
「…何なん?」
「どうして羊歯の花を探したかったの?」
「…別に。理由なんかないし。」
「嘘。じゃなきゃここまでしないでしょ。」
あるかどうかもわからない、しかも見たこともないものを探すなんて、目的がなかったら普通はしない。
「……誰かが言ってたんよー。羊歯の花探して一晩中森から帰って来なかったカップルは、何かやらしい事しとったんだって翌日皆に注目されるって。」
「…ポー、そんな事がしたかったの?それとも注目されたかったの…?」
その理由のくだらなさにオレは愕然とした。
羊歯の花を見つけた者は願いが叶うとか幸福になれるって言われてるから、てっきりそういう理由だと思っていたのに。
それじゃあ真剣に探していたオレが馬鹿みたいじゃないか…。
「や、別にオレはどっちでもいいんよ。何かそういうのも面白そうと思っただけで。オレだって羊歯の花が咲くなんて本気で信じとるわけやないし。…まぁ超キレイって言われとるから、見れるなら見てみたいとは思うんやけど。」
「…初めから目的は花じゃなかったわけね。」
すっかり気抜けしたオレは大きくため息をついた。今まで気力で耐えていた疲れが一気に押し寄せる。
「リト怒っとるん?」
ポーランドは体を反転させ、オレと向かい合う。
「オレはもっとロマンチックな回答を期待してたよ…。」
せめて理由さえまともだったら、こんなに精神的ダメージは受けなかっただろうに、とオレはやり場のない気持ちを持て余す。
「…羊歯の花探すなんて、夜出歩くための公然の言い訳に決まっとるし。」
こんなことしとるのオレたちだけじゃないはずなんよ、とポーランドはオレの肩に手を回して囁いた。
「ポー…」
ポーランドが宥めるようにオレの額にキスを落とす。
「リト……」
ポーランドがうっとりとした目つきでオレを眺める。それがとても可愛くて、思わずオレはポーランドを抱きしめた。
「リト…!?急にどうしたん?」
「別に。…期待してたんでしょ、こういう展開」
そう言ってオレはポーランドをこれ以上喋らせまいとそのまま口付ける。
「ん…」
今どこにいるかもわからないし、このまま歩き回ったって疲れるだけだ。だったらここで夜が明けるのを大人しく待つ方がいい。
そう思ってオレがそのまま行為に持ち込もうとしたその時だった。
「ん……リ、リト!あれ……!!」
突然ポーランドがオレの後方を指差しながら場にそぐわないトーンで話しかけた。
「え、何…?」
ポーランドが指差す方向を見ると、暗闇の中にぼうっとオレンジの光がいくつも浮かんでいた。
その光は動いていて、オレたちのいる場所からほんの数メートルの所を通り過ぎていく。
その光景にオレは見覚えがあった。
「あれ何なん?羊歯の花…?」
「あれはたぶん……蝋燭の光だよ。」
「蝋燭?」
「花輪の真ん中に蝋燭を取り付けて川に流すんだよ。」
向こうに川があってこっちに流れてくるって事は、オレたちは夏至祭の会場より下流の方にいるのか…。帰り道がわかったオレは内心ほっとしていた。
「リト、あれ近くで見たいし」
「…じゃあ行ってみようか」
オレはポーランドを膝から下ろして一緒に川まで見に行った。
暗闇を流れる蝋燭の光は幻想的でとてもきれいだった。ポーランドもそれに見とれている。
「きれいだね…」
「ん…こんな所で見れたのも全部オレのおかげだし。」
「もう、調子いいんだから…」
確かにポーランドが森へ入らなかったらこんな光景二人きりでは見れなかったかもしれない。そこは偶然とはいえ感謝してもいいかなと思ったけど、口に出すのはやめた。
蝋燭の灯った花輪が流れて行くのを最後まで見届けたら、間もなく夜が明けるだろう。今から会場へ戻れば一緒に焚き火を飛び越えたり、日の出を見たり、色々できるはずだ。
ポーランドは足が痛いとか眠いとか文句ばかり言うだろうけど、それも戻れば止むに違いない。ポーランドにとって真新しい事はまだあるはずだから。
「ポー、戻ろうか。」
「えー今から帰るん?オレ疲れたし…リト、背負って。」
「え…オレだって疲れてるよ……」
疲れたって言われるのは想定してたけど、背負うのはちょっと辛い。
「オレが疲れたのはリトのせいだし。羊歯の花が見れんかったのも眠いのも全部リトのせいなんよー。」
「……さっきと言ってる事変わってない?それにオレ何もしてないじゃない。」
「ごちゃごちゃうるさいしー。」
…なんかもういつものパターンだ。こうなったら流れは決まっている。
「ああもうわかったよ。背負えばいいんでしょ、背負えば。」
「最初から素直にうんって言えばいいんよー。何度も同じこと言わせるなだしー。」
オレがやけになってそう言っても、ポーランドは当然のようにオレに背負われる。
「はいはい……。疲れてるからって眠らないでよね。」
「わかっとるしー!」
いつもなんでもオレのせいなのは変わらない。
オレってポーランドの何なんだろう…。
でもわがまま言われるのも、こんな風に頼られるのも不思議と悪い気はしない。
まだ夏至祭は終わってないけど、来年もこうやって一緒に過ごせたら楽しいだろうなと思いながら、オレは帰り道を急いだ。
fin.
***
「リトアニアミレニアム」に投稿したもの。テーマは「夏至祭」。
trasognata(トラソニァータ):イタリア語で「夢見るように」
途中、あやうく年齢制限な展開になるところでした。リトに主導権を持たせるのって難しい…。
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