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朝目が覚めると、いつもならとっくに起きて朝食を作っているはずのリトが隣にいた。
隣にいるのはいい。昨晩情事に及んだから同じベッドにいてもおかしくない。問題はリトが寝ていたわけではなくて起きていたって事だ。

「リトいつから起きとったん?」
時計を見るともうすぐ11時。どんなに夜更かししても普段のリトなら間違いなく起きている時間だ。
「目が覚めたのは八時前くらいかな」
抑揚のない声でそう答えると、リトはオレを恨めしそうに見上げた。
そんな時間から起きていてベッドから出ないなんて不自然なことこの上ない。オレが上半身を起こしてるのにリトは寝たままなんて身体に何かあったとしか思えない。
「…じゃあなんで今までベッドで寝たままなんよ…?」
恐る恐るそうきくと、リトは「…お前のせいだよ」と疲れきったような声で言った。
「はぁ?なんでオレのせいなん!?」
しかもリトの言った事ってオレの質問の答えになってない。意味の繋がらないリトの発言に少し苛立ちを覚えながらもオレはリトの反応を持つことにした。
「…あのさポーランド、オレ腰が痛くて起き上がれないんだよ」
誰のせいなの?と問うような目でオレを見ながら「腰だけじゃなくて体中あちこち痛いんだ。」とリトは更に続けた。
「…あー……」
それ以上はどう喋ればいいのかわからなかった。気まずくて、思わずリトから視線をそらしてしまう。
昨夜の事が原因なら、確かにオレには非がある。けれどそんなに風に言わなくても…。
「誰よりも早くリトの誕生日を祝いたかったんよ…」
それは嘘じゃない。そのために前日から泊まりに来たのだから。
リトは苦笑しながら「うん、知ってる」と言った。
「…じゃあ今日はオレがリトに色々してやるしー」
いつもの調子でそう言うと、リトは驚いた顔をした後に「大丈夫なの?」と不安そうに呟いた。オレが唐突に何かを思いつくなんて珍しい事じゃないのに。
「リト、オレを何だと思っとるんよ。確かに普段は何もしとらんかもしれんけど、それはリトといる時だけだし!」
不機嫌そうに言ってみせると「…じゃあお願いしようかな」とリトは社交辞令のように言った。
「じゃあ、まずは朝ごはんでも作ってくるし!」
そう切り出してオレはキッチンへ向かった。リトの腕に比べたらまだまだかもしれないけれど、料理くらいオレだってできる。
作った朝ごはんは本当にたいしたことのない軽食だったけれど、リトは「美味しいよ」と言ってくれた。
リトの腰痛は上体を起こしてご飯を食べられるくらいには良くなったようだ。それでもすごく辛そうだったので、オレは困惑した。

リトの事は誰よりも知っているつもりだ。我慢強いリトが「辛い」と言うのなら、それは相当な痛みなのだと思う。
「リト、まだ痛いん?…だったらオレがマッサージしてやるし!」
これくらいしか気の利いた事が言えなくて情けなかった。
ゆっくりとうつ伏せになったリトの足を跨いでその腰に手をあてる。
「…っう」
「あ…ごめん」
その辛そうな声に思わず力が緩む。すぐにリトは「ごめん、大丈夫だから」と言ったけれどそれが嘘って事くらいわかる。それはリトの性格のせいもあるから、こういう時こそオレは明るく振舞わなければいけないと思ってしまう。

ふと、リトの背中に目が行った。あの傷の事を思い出す度に、自分ではどうしようもない大きな力の存在を感じる。
…悔しくてたまらない。
それでもオレは笑わなきゃならない。それはリトのためじゃなくて、たぶん何もできなかった自分のためだ。

「ポー?」
黙り込んだオレを不思議に思ってリトが声をかけてきた。
そうだ、今日はリトの誕生日だ。こんな日くらいオレは……。
「なぁリト」
込み上げてくる涙をどうにか押さえこんでそう切り出す。
「何?」
決まったようにそう返ってくるその言葉にオレはたまらない気持ちになる。

「Su gimimo diena」

オレがそう告げると思考が止まったようにリトは声を上げない。
こういう時リトがどういう顔をしているのかオレにはわかる。
「…オレが一番にリトの誕生日を祝いたかったんよ…」
今朝と同じようにオレが言うと、リトも「うん、知ってる」と何のためらいもなく答えた。

特別な日を一緒に過ごす。
こんな幸せが当たり前じゃない事をオレは知ってる。
だからこそ、この柔らかな声をずっと側できいていたい。そんなささやかな願いを込めてオレは再びリトに触れた。



fin.


***
一応リト誕SS(2010)。
お互いに口にはしないけれど、一緒に過ごせる今という時間をとても大切に思っていると思う。だからやっぱりこの二人は一緒に笑っていてくれるのが一番です。誕生日おめでとう、リトアニア!!
タイトルの意味は「祈り」。

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