「リト！！」
その日、リトアニアは朝から文字通りたたき起こされた。大声で名前を呼ばれるだけならともかく、目を覚まさずにはいられない程の力で肩や顔をたたかれたのだ。まるで火事だから逃げろとでも言わんばかりに。
振り回されるのはいつもの事でも、こんな起こされ方をするとは予想してもいなかったリトアニアは、何事か、と重い瞼を開いた。
「…何なの？こんな朝早くから。」
たたき起こした相手は昨日から遊びに来ているポーランド。リトアニアを覗くポーランドの表情は今にも泣き出しそうで、眠気が吹き飛ぶ程リトアニアにとって意外なものだった。
「ポー、何でそんな顔してるの？…何かあった？」
リトアニアはとりあえず思ったことを口にするが、ポーランドは返事をすることもなく無言でリトアニアをぎゅっと抱きしめた。かなり強い力で抱きしめられたので、痛いよ、とリトアニアは抗議するのだが、一向にきくつもりはないようだった。
リトアニアからポーランドの顔は見えなかったが、ポーランドは何やら思いつめているようで、背中に回されたその腕は、リトアニアの髪の毛や背中を撫で回している。しかもべたべたとひっきりなしに触るのではなく、何かを確かめるようにゆっくりと撫でるのだ。
「もう…」
リトアニアは仕方なくポーランドの好きにさせることにした。

「じゃあオレシャワーでも浴びてくるし」
しばらくして、リトアニアを堪能したポーランドは、突然そう言い放って部屋を出て行ってしまった。
…今日オレ誕生日なんだけどなあ。
部屋に取り残されたリトアニアは、幼なじみの理不尽な行動に呆れながらも、いつものように着替えてから朝食を作ることにした。

「あー！！！リトもしかして朝ごはん作っとるん？」
突然リトアニアの背後からポーランドが大声で叫んだ。今度は何だと思いながら調理の手を止めてリトアニアが振り返ると、エプロンを手にしたポーランドが立っていた。
「ポーランド…そのエプロンどうしたの？もしかして手伝ってくれるの？」
「違うし。オレが作ろうと思っとったのに…。」
頬を膨らませてそう言った上目遣いのポーランドを、リトアニアは可愛いなと思ったが、そう言うと怒るので、代わりに穏やかに微笑んだ。
「ごめんね、もうほとんど作っちゃったよ。」
「ここからオレが作るし」
そう言って譲らないので、リトアニアは残りの調理をポーランドに任せることにした。
「ねえ、今日はどうしたの？」
「何がなん？」
「だって…いつもオレがどんなに手伝ってって頼んでもポーランド手伝ってくれたことないじゃない。」
「だってリトが作った方がオレが作るより美味しいし。それに、オレが作るのは今日だけだし。」
「え･･･どうして今日だけなの？」
リトアニアは久しぶりにいい予感を覚えていたのだが、それがいつもの気まぐれじゃない事をどうしてもポーランドの口からききたくて、きいてみることにした。
「リト今日誕生日だし」
ポーランドはあっさりリトアニアの予感を現実にしてくれた。
「……ポーランド覚えててくれたんだ」
「そんなん当たり前だし！」
期待通りの答えが返ってきたので、リトアニアは思わずポーランドを後ろから抱きしめた。
「ちょっ、リト、危ないし！オレ刃物持って…」
ポーランドの口調は怒っていたが、本心はそうではないことをリトアニアは知っていたので、「ありがとね」と耳元でささやいた。
ポーランドは耳まで真っ赤になったが、リトアニアの言葉には反論しなかった。
「ねえ、ポーランド。ひとつきいていい？」
「何なん？」
「どうして今朝オレをたたき起こしたの？」
「……それ、答えんとダメなん？」
「え、いや、答えたくないなら別にいいんだけど。」
それでも言葉とは裏腹なリトアニアの興味を感じ取ったのか、ポーランドはため息をついて口を開いた。
「……昔の夢見たんよ、リトがロシアに連れて行かれた時の。…あの頃は離れてるのなんてほんの一瞬やしって高くくっとったけど。」
「…ポー」
ポーランドは持っていた包丁をまな板に置くと、リトアニアの方に振り返って続けた。
「リト、そんな辛気臭い顔すんなだし。･･･朝起きて、今日はリトにとって特別な日なのに、なんでこんな縁起悪い夢見たんやろうってちょっと自分が嫌になっただけだし。だから……リトは隣に寝とるってわかっとったんやけど、ちゃんと確かめたかったんよ。ごめんな。」
ポーランドは珍しく苦笑いをしながらリトアニアに向かって両手を広げた。リトアニアはそんなポーランドを当たり前のように受け入れると、同じように自分の手をポーランドの背中に回した。
「ポー…オレ、ここにいるから。」
「ん…」
「だからポーランドもオレの隣にいてよね。」
「そんなん当たり前だし！リトの隣はずっとオレの場所って決まっとるし。」
そう即答して不敵に笑うポーランドは、今日のリトアニアにはとても眩しく見えた。



　　　fin.


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　「リトアニアミレニアム」に投稿したもの。テーマは「独立記念日（リトアニア誕生日）」。

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