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出張のある任務はベルを伴う事が多い。
6月、僕はボスに命じられてベルとジャッポーネに来ていた。この時期は梅雨といって雨が降っている事が多いらしい。例に漏れず、僕らが来た時も土砂降りとまではいかないけれど傘が必要な程度には雨が降っていた。

正直なところ、この平和ボケした国での仕事はやりにくい。
治安がいいからターゲットのも警戒少なくて殺し自体は楽なのだけれど、ベルのようにナイフとワイヤーを使ってしまうと、拳銃すら持たない国民はすぐによそ者を排除しようとするし、警察の厳戒態勢は色々と不便だ。
だから騒がれないために他殺ではなく自殺に見せかける必要がある。
ターゲットが殺された事をわからせたい組織にそれが伝われば自殺で処理されても何の問題もない。そのあたりはヴァリアーに依頼をした方で動く事になっているから、ボスは僕らに「警察に騒がれないように殺せ」と命じる。

そんな任務だと、基本的に殺すのは僕の仕事だ。
幻術でターゲットの精神を崩壊させて自殺させたり事故を起こす。ベルはターゲットを追い詰める段階で時々手伝ってもらう程度の理由で組んでいるにすぎない。
それでも時々我慢できなくなったベルがナイフで刺し殺してしまう事があるけれど、そういう時は刃物での自殺を装わせる。そんな手間を考慮するとベルの同行自体甚だ疑問ではあるけれど、ベルの出張費が自分のものになるわけでもないしボスの判断に文句を言っても仕方ないのでまぁそれも任務の内だと思って我慢している。それさえ耐えればジャッポーネでの出張は他と比べてとても快適なものなのだ。


早々に僕たちは任務を終え、帰りの飛行機の時間の都合で半日ぶらぶらする事になった。
空港へのアクセスのいい駅で適当に降りて散策する。普段は空港で待ち合わせて別行動することが多い僕とベルだったけれど、その日は何となく一緒だった。
ランチに寿司を食べてお土産を買って…特にやりたい事のない僕はずっとベルに付き合っているだけだった。興味を惹かれたものへ吸い寄せられるように動くベルはカードで次から次へと買い物をしていく。
もっとよく考えてから買うべきだと思うけれど、もう何度もそう言ってるし、欲望に忠実な彼がそんな忠告を聞き入れるわけがない。そんな彼に半ば呆れつつもどこか羨ましく思いながらその様子を眺めていると、「なぁマーモン、あれやらね?」とビルの一角に設けられた宝くじ売り場を指差した。

「君、現金なんて持ってないだろ」
買わなきゃ当たらない宝くじ。もしも一等に当選したら…なんて、買わないよりは買って妄想してる方がまだ現実味がある。投資としては僕にはリスクの高いもののように思えた。
当たったらラッキーだと思う程度の抽選日までの夢を買っている人がほとんどなのだろうけれど、「一等当たったら何しようかなー」と、まだ宝くじを買ってもいないベルは僕に聞こえるようにそう呟いた。そして「一等当たったら一千万円分のクレヨンを買ってあげるよ」なんて言う。
「クレヨンよりは現金がいいよ。」
僕がそう返す事なんてわかりきっているはずなのに、ベルは聞いていなくてなんだか楽しそうだった。
しかも彼が買ってくれるのは全て「青いクレヨン」らしい。往々にしてこの王子様はわけもなくそんな事を言い出す節があるけれど、今回は中々極端だ。
青いクレヨン一千万円分ってどれくらいの量だろう、と僕は考えた。今までクレヨン一本だって使い切った事すらないから、一日一本消費したとても何十年もかかるだろう。というか、一日一本クレヨンを消費する時間がもったいない気がする。
それ以前に青いクレヨンなんて要らないのだけれど、彼の話に乗って「青いクレヨンだけじゃ何もできないじゃないか」と僕が言うと、「空がたくさん描けるぜ?」と無邪気に切り返してきた。しばらくして「海も描けるし」とも言った。

一千万円分の青いクレヨン。
本当に買ったらその年国内で消費する青いクレヨンの半分近くをシェアすることになるんじゃないだろうか。
僕がそう言うと、「それどころか青いクレヨンが不足して青いクレヨンの価値が上がるかもしれないぜ?」とベルは得意気に言う。
もし、「なら、買ってみせてよ」と言えば、たとえ宝くじなんて当たらなくても目の前の王子様は本当にそうするだろう。別に宝くじなんて買わずともお金には困っていないのだから。
すべては買ってもいない宝くじが当たったら、という妄想なので一切現実味のない話だ。
現実になっても困るので僕は何も言わなかったけれど、「一千万円分の青い空」はどこか夢があっていいなと思った。



fin.

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