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※スクアーロ女体化。
※妊娠・中絶表現あり。
苦手な方は注意して下さい。
「結婚しないの?」
その言葉はヴァリアーでは禁句になっているらしい。
あえてそれを口にするオレはといえば、冷めたザンザスと切れる寸前のスクアーロの視線を一手に引き受けなければいけなかった。
半年に一度のボンゴレ本部の大きな会議。二日に渡って行われるそれはボンゴレ傘下のトップが一同にそろうもので、ヴァリアーからはザンザスとスクアーロが出席していた。会議の合間にオレはどうにかザンザスたちに話しかける機会を得たわけだけれど、二人の間に子供が生まれたってやっぱり彼らの纏う空気は特殊なもので、近寄り難くないと言えば嘘になる。
こんなの十代目の仕事じゃないよ。これなら獄寺くんに急かされながら書類を片付けることの方がはるかに楽だ。そんな事を考えながらオレは冒頭の言葉を口にした。
「仕方ねぇだろ、このドカスがそれだけは嫌だってほざくんだよ。オレは結婚指輪も婚姻届も全部用意してプロポーズしたんだ」
ザンザスはどうにかできるもんならしてみろとオレに目で訴える。
「え、どうして?」
「こいつは腐ってもボンゴレの御曹司だぁ。オレなんざ釣り合わねぇ。結婚なんて必要ねぇ。」
「別にオレは腐ってねぇし御曹司なんかじゃねぇ」
「お前がどう思ってたって世間ではそうだろうがぁ!」
「てめぇのくだらない意地のせいでオレをガキの父親にしない気か!?」
ザンザスはどうやらスクアーロとの結婚をまだ諦めていないらしい。良かった、これならまだ二人の結婚を画策する余地がある。
「認知でもなんでも好きにすればいいだろぉ。こいつの父親は間違いなくボスだしなぁ!」
銀色の髪と深紅の瞳を持つ子供は母親であるスクアーロに抱きかかえられるぬくもりに安らぎを覚えているのか、時折笑をもらす。
「認知とかそういう次元の話をしてるんじゃねぇ!」
ザンザスの言い分はわかる。女性は自分で産めば間違いなく母親になれるけど男はそうはいかない。認知しても世間的には父親と見なされない。
ザンザスは結婚しない代わりにスクアーロの出産前からいろんな場所へ連れて歩き、スクアーロとお腹の子供は自分のものだと関係者に見せ付けた。事実婚という形をとったのだ。
まぁそんな事しなくてもザンザスとスクアーロの仲を誰も疑わないと思うけれど。
「結婚しちゃえば?皆知ってるんだからいいじゃない。今更ザンザスが他の女性と結婚するとは思えないし、フェリクスの父親なんだから何も問題ないじゃない」
スクアーロにはザンザスを自分のものにしたいって気持ちはないのかな?ゼロってことはないと思うけれど、もしかしたら子供を産んだことで満足しているのかもしれない。…愛の結晶だから当然か。形だけの冷め切った夫婦よりずっと説得力がある。
でも子供がいなくたって二人の絆はもっと深いと思う。過ごしてきた年月も想いもオレなんかじゃ想像ができないくらいきっと深い。
だからこそザンザスはスクアーロのわがままをきいているのかもしれない。かつて自分が八年もスクアーロを待たせたように、彼女の心が動くのを待っているようにしかオレには思えなかった。
ああ、とってもお似合いだよ。ねぇスクアーロ、ザンザスよりいい男はいないって思っているのならその本能に従っていいと思うよ。他に選ばないなら結婚って形をとってもいいんじゃないかな。
「フェリクス、もうすぐ誕生日でしょう?オレ何が欲しいかきいたんだよね。そしたら何て言ったと思う?」
「…あいつは何も欲しがらねぇじゃねぇか」
誰よりも慈しんできた息子の答えをスクアーロは当然のように言い当てた。
そう、あの子は何も欲しがらない。
両親の特徴をそれぞれ受け継いだ子供は甘やかされて育ったにも関わらず、もうすぐ五つになるのに随分と大人びていた。
自分をとりまく現状に満足しているせいか、その名の通り「今幸せだから何も要らない」と返ってくる。
「うん、そうなんだよね…でもして欲しいことならあるみたいだよ?」
「して欲しいこと?今まできいたことねぇぞぉ!?」
腕の中で眠りかけていた息子をソファーに寝かせてまじまじと見つめる。
「優しい子だからきっと言えなかったんだろうね。…君とザンザスに結婚して欲しいって。君のウェディングドレス姿見たいんだって。」
ダメ元ってわかっているけれど、別に嘘をついているわけじゃない。それがあの子の、フェリクスの願いだった。
「……それは、無理だぁ」
十数秒の間を置いてスクアーロは搾り出すようにそう言った。息子の望みなら何だって叶えてやるつもりだった彼女は申し訳なさそうに笑う。
「ねぇ何を遠慮しているの?ザンザスはあなた以外見てないし、これからも他の女と結婚することはないよ?」
誰の反対もない。あとはスクアーロの気持ち次第なのに。
ザンザスは最後まで黙ったままオレを訝しげに見ているだけだった。
二日目の会議中にスクアーロは突然倒れた。すぐに医療班の元へ運ばれた彼女は適切な処置を受けてザンザスの部屋で眠っていた。
ザンザスは仕方なくその場に残り、会議はその後も滞りなく進んだ。
「マンマ、大丈夫?」
「う゛ぉ、フェリクス、いたのかぁ?ベルはどうしたぁ?」
心配そうに枕元を覗き込む視線に微笑みながら息子の子守に連れてきた怠惰の王子の名を口にすると、「ベル兄とははぐれちゃったの…」と返ってきた。
「スクアーロ、体調どう?シャマル呼ぼうか?」
「あ゛ー…もしかしてオレ倒れたのかぁ?」
確認のためにそうたずねたオレにスクアーロは自身に起きたことの記憶をたどる。
「そうだよ…お腹に二人目いるんだって。」
「そっか、オレ妊娠してんのかぁ…全然気付かなかったぞぉ」
混乱させないように簡潔にそう告げると、スクアーロはその言葉とは裏腹に落ち着いた態度を見せる。
「おめでとう!ザンザスはしばらくしたら来るから…だからね、今は安静にしててね。」
「お゛ぅ……」
「ツナ兄…」
背後のオレをフェリクスはもの言いたげに振り返る。優しく頭を撫でるとすぐにその表情は緩んだ。
「フェリクス、マンマのお腹に赤ちゃんがいるんだよ。もうすぐお兄ちゃんになるね」
「うん!妹が生まれるんだよ!!」
躊躇なくフェリクスは生まれるのは女の子だと明言する。
「ねぇフェリクス、どうして妹ってわかるの?」
「夢で遊んだの!お兄ちゃんとお姉ちゃんたちも一緒なの。」
「フェリクス…?」
それ以上の追求ができない程のほころぶようなその笑顔にオレは一瞬たじろいだ。
ちょうどその時、子守役のベルフェゴールがザンザスを伴って現れた。
「あ、フェリここにいたの?王子超探したんだけど。」
二人の姿を目にとめると、フェリクスは駆け寄った。
「ベル兄!パパン!あのね、マンマのお腹に赤ちゃんがいるんだって!」
「え、何、もしかして二人目?あ、二人目じゃないか」
おめでとう!と続けながらベルフェゴールはザンザスに視線を送る。
「…二人目じゃないの?」
きいてはいけない空気を感じながらも気付けばオレは湧き上がる疑問を口にしていた。
「あ、お前知らないんだ?フェリは四人目なんだよ」
「ベル、やめろぉ!」
平然と答えるベルフェゴールをスクアーロが制する。
ザンザスとスクアーロの子供はフェリクス一人しか知らない。フェリクスが四人目…他の三人は?ベルフェゴールの言葉の意味が飲み込めずに混乱するオレを宥めるように、フェリクスが「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるの」と言った。
「え…?」
とっさにそう返したオレの能天気な様子とは対照的に、スクアーロは蒼白な面持ちで我が子を見つめる。
「フェリクス、お前どうして知って…」
「夢でねーいつも遊ぶの。お姉ちゃん二人とお兄ちゃん一人。フェリが生まれる前も一緒だったのー」
「フェリクス…?」
ザンザスまでもがフェリクスに不審の念を持っているようだった。
「幸せになっておいでってお姉ちゃんたちに言われたの。ベル兄も言ってくれたでしょ?」
「生まれる前の記憶があるんだ、フェリ」
得意気に語るフェリクスにベルフェゴールは優しくそう言って抱き上げる。
「うん!だからね、今とっても幸せなのー!」
「お姉ちゃんたちと仲良しなの?」
「うん!」
「フェリさぁ、マンマとパパンの事好き?」
元々大人びているフェリクスは素直にベルフェゴールの質問に答える。
「うん、大好き!お姉ちゃんたちもね、大好きって言ってるよ」
「ホントかぁ…?」
俯いていたスクアーロが反応すると、フェリクスは「マンマと一緒にいた時…お別れするまで大切にしてもらえて嬉しかったっていつも言ってるよ」とスクアーロの目を見つめてはっきりと言った。
「オレ…優しくなんて、できなかったぞぉ……」
「マンマ、泣かないで。」
「スクアーロ、お前のせいじゃないって」
ベルフェゴールは抱きかかえていたフェリクスをベッドに腰掛けていたザンザスに渡しながら慰める。
「違っ…優しくなんて……だってオレ殺したのに…!」
「マンマ、違うの。ちゃんと愛してくれたって皆わかってるの。…だからね、誰も恨んでないよ?」
動揺する母親を宥めたのは息子の言葉だった。
幸せだと、幸福の名を持つ子供は言う。
「フェリクス…!」
スクアーロは寄り添う我が子の存在を確認するように抱きしめて額に何度もキスをした。隣に座るザンザスとそれを見守るベルフェゴールは何かを諦めたようにその様子を眺めている。
「ねぇ、スクアーロは幸せじゃないの?だから結婚しないの?」
「沢田?何言って…」
「愛してるってザンザスに言わないの?」
「…っ」
「あなたたちの子供は皆幸せなんでしょう?だったらもうあなたたちも幸せになってもいいんじゃない?」
結婚することが必ずしも幸せになる方法ではないけれど、幸せのひとつの形であることは間違いない。それを願う周囲の想いはとても深くて、オレもその一人なんだと思う。
息子に「幸福」という名を与えたザンザスの気持ちが少しわかったような気がした。今が幸せだから両親に結婚して幸せになって欲しいと願う子供の気持ちも。
スクアーロは戸惑いながら自身のお腹に宿る生命を確認するように優しく撫でた。
「なぁボス、ザンザス…お前の事…愛してるって、言って…いいのかぁ?」
人前でもザンザスと二人きりの時も彼女はずっとその言葉をタブーだと思っていたのだろう。
一番伝えたい言葉を胸にしまって生きていくつもりだったんだろうか。子供もいるというのに。
ザンザスの剣として忠誠を誓った彼女にとってそれが当然の事だったとしても、美しい主従の形だったとしても、やっぱり腑に落ちない。もっと幸せになって欲しい。手が届くくらい近くにいるのに。もう離すつもりなんかないくせに。
そんな当たり前の事が本当にこの人たちには難しくて、いじらしくて、切なくて。
ザンザスは今にも泣きそうなスクアーロに「当たり前だろうが」といつもの調子で答えた。それからフェリクスとひとまとめにその腕に抱き込むと、スクアーロの耳元で何か囁いて号泣させた。
彼女が泣き止んだらザンザスは常備している指輪を渡すのだろう。同じ事を考えているらしいベルフェゴールはオレと顔を見合わせて苦笑する。
オレとベルフェゴール、そしてフェリクスはその瞬間が待ち遠しくてたまらなかった。
fin.
***
Common Rueはヘンルーダの事。
花言葉は悔恨。
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