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「…産んでいいのかぁ?」
信じられないくらい小さな声であいつはそう言った。
もう一度同じセリフを言うと今度は考えこんだ挙句、次々と抱え込んでいたらしい不安を口にした。オレの言葉に了承の返事をしたのはあいつの不安を一蹴してからだった。

「もう三人も殺しちまったのに…」
自責の念で混乱する目の前の女は本当にどうしようもなかった。
でも「オレはそんな事知らなかった」と言い逃れるには責任がありすぎた。産めなんて言われるはずがないと思われるくらいの事をしてきた自覚がオレにはあった。だからこいつ一人を責められないし、下手な慰めを必要としていないのもわかっていた。

ベルはオレに責任をとれと言った。
スクアーロを幸せにしろと。こいつの子供は幸せだと。
こいつの本当の望みはわからない。子供を産むことが幸せなのか、それからどうしたいのか、オレに何を望んでいるのか。

ただ、産まれたばかりの子供を抱きしめて「会いたかった」と呟いたあの言葉だけは間違いなくあいつの本心で、今まで感じたことがないくらいに純粋に美しいと思った。

金があれば幸せになれるわけじゃない。そんな事は痛いくらいにわかっている。
これからオレにどうしろというのか。子供は産むが結婚は絶対にしねぇとほざいていたあいつは当分その信念を曲げないだろう。結婚していない両親と人殺しの集団の中で子供をどんな風に育てるつもりなのか。

オレがガキを産めと言った時死にそうだった女は、今、自身の腕の中で眠る子供を愛おしそうに見つめている。
あれが今から歩いて喋れるようになっていくのか。そうなるまでにどれだけの庇護を必要としているのだろう。
少なくとも今は絶対にひとりでは生きていけない。それはわかる。

愛されていたのだろうか、オレも。あの鮫がオレとのガキを甲斐甲斐しく世話して優しく抱きしめてやるように、腹を痛めて産んだ子供は物心つくまで無償の愛を注がれていたのだろうか。
赤ん坊の頃の記憶などない。物心ついた頃の思い出はろくなものがない。その後などもっと悲惨だ。どうやって大人になったのかも覚えていない。今もそんな大層なものじゃない。
鮫は最初からガキの世話をするつもりだったらしく良い母親になれるか心配していたが、オレから見ればあいつは出産前から十分に良い母親であったと思う。
何ヶ月もその身に胎動を感じて日々成長するわが子を命がけで産むのだから、それだけでも大したものだろう。この世では母親という人種が一番強いと言われているが、それはわかる気がする。どんなに出来の悪い子供であったとしても母親にとってそれは唯一の存在なのだ。生まれる前から惜しみない愛情を与えられていたからこそ子供は無事に生まれて成長できる。
そんな女に対して父親である男ができることは少ない。母親のそれに比べたら無力に等しい。父親になった実感が湧かないのはそのせいだろう。

それまで三度も中絶という選択をしてきた鮫はどういう気持ちだっただろうか。
オレの素行のせいで母親になる機会を三度も奪われたのだ。心も体も傷ついたのは想像に難くない。
それでもオレに付き従う鮫は四度目でようやく母親になった。もっとマシな男が世の中にはいくらでもいたはずなのにオレの側を離れなかったのは自身が勝手に立てた誓いのせいか。そんなものに縛られる必要はなかったのに。
そう言葉にしたとしてもあいつは自分で選んだのだからと言うのだろう。本当にどうしようもない女だ。
そんな女を愛しいと思うようになったオレも重症だ。
一人の男と女がいて、その間に子供が生まれる…そんな人並な出来事がオレの人生に訪れるとは思っていなかった。

「なぁボス、…ザンザス、お前父親になったんだぜぇ?」
そう言って鮫はオレに腕の中のガキを抱いてみろと渡す。
オレが父親になったんじゃねぇ。てめぇがオレのガキを産んだから父親になれたんだ。全部お前に与えられたものだ。オレは何もしてねぇ、できてねぇよ。お前は信じねぇだろうがな。
腕の中のガキは小さく柔らかかったがちゃんと人の形をしていた。鮫は隣でオレを満足そうに眺めている。
オレは鮫と違って良い父親になれるかわからない。でもこの先ガキの成長を見ながら生きるのも悪くないと思った。



fin.


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