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※スクアーロ女体化。
※妊娠・中絶関連表現あり。
 苦手な方は注意して下さい。



その日の任務は幹部二人がボスによって指名される、いわゆるSランクのものだった。
オレがスクアーロをサポートして、彼女が人ごみの中ターゲットを探して殺す、というかなり面倒くさい内容だった。その場にいる連中殲滅とかならオレ一人でも十分だったのに、本部の奴等はホント甘い。仕方なくだったんだろうけど、一人殺すために幹部二人も出動させるなんてボスもどうかしてるよ。
そんなつまらない任務でも隣にいるスクアーロは黙々と仕事をこなすから任務の最中はオレも静かにしていた。記憶を飛ばすような内容ではなかったから、彼女が獲物をしとめたらさっさとアジトへ帰ってジャッポーネで最近話題の新作RPGの続きでもしようと思っていた。

「う゛ぉ゛おい!ベル、何ぼーっとしてやがる?!」
ターゲットをしとめたらしい彼女は大方のサポートを終えて少し人ごみから離れた所にいたオレに見せ付けるように血に濡れた剣をぶんぶん振り回している。
「あー終わった?王子つまんねーよ、こんな任務。お前一人で十分やれたんじゃね?」
「仕方ねぇだろ、ボスが念のためにってオレら幹部を投入したんだからよぉ。たまにはこういうのもいいだろぉ?」
よくねーよ、王子今回一人も殺ってねーっつーの。殺さないように排除する事ほど面倒なことはないのに。
意気揚々と戻ってきた彼女を羨ましく思いながら、今日は徹夜でゲームしようと決めた。
まだ日付は変わっていない。無駄に動き回ったからどこかで軽く食事をしたいなと思った。ボスは出張でいないから少しくらい遅くなっても問題ないだろうし。
「なぁスクアーロ、ちょっと腹減ってねー?王子お腹すいたんだよねー」
返事がないのを不思議に思って振り返ると、膝をついて倒れこむ寸前のスクアーロが目に入った。
「スクアーロ!!」
反射的に駆け寄って支える。
「っう、ぁ……ごめ……っ」
顔を真っ青にしながらお腹を押さえる彼女を見て、ああまたかとオレは思った。


オレが病室を訪れると彼女はもう目覚めていて、体を起こして真っ白な病室の壁の一点を意味もなく見つめていた。
「オレと一緒の任務で良かったね、スクアーロ」
「…あ゛あ。迷惑かけたなぁ。」
彼女は視線を少しも変えずにそう答えた。
堕ろすの?とオレがきくと、「そうするしかないだろぉ」と笑って見せた。

もう何度目か知れないボスとの子供。
その子供全てを彼女はボスに隠したまま中絶している。
オレがそれを知ったのは数年前。今回のように本当に偶然に知ってしまった。
今まで見たことないくらい必死で誰にも言うな、黙っていてくれと彼女はオレに懇願した。
いくらオレでも中絶がどれくらい大変な事かくらいはわかる。それを一人で耐えていた事、その計り知れない身体的・精神的な負担を考えるとオレまで泣きそうだった。オレよりずっと親身にその事をうまく受け止めてくれそうなルッスーリアにすら言わずに、気付かれずにいたくらいだ。本当に誰にも知られたくない秘密だったのだろう。
長期の休みをとれば周りに不審に思われるから中絶後十分な療養ができずにいた彼女をできるだけ休ませてあげたくて、その秘密を知ってからはこっそり任務を代わってあげたりした。オレにはそれくらいしかできる事がなかった。

本当は彼女だって生みたいのだ。最愛のボスとの子供を。
ただ、ボスの相手を時々している商売女が子供を武器に迫って消されそうになるのを何度も見ている彼女にはそれが言い出せない。
ボスが子供なんて望んでないのだと思っている。
でもさ、お前との子供なら違うと思うよ。王子はそう確信している。
何度かそう言ってみたけれど、「そんなはずねぇ」とか「両親が人殺しじゃあ生まれたって幸せになれるはずねぇ」って困ったように笑うから王子はそれ以上何も言えなくなる。

もう幸せになれば?
お前は人殺しのオレにだって優しかった。母のように、姉のように甲斐甲斐しく面倒見てくれた。オレは元々おかしかったから自分の血を見ていまだに記憶を飛ばすけれど、お前やルッスが面倒見てくれなかったらこんなんじゃすまなかったと思う。

好きな男との子供じゃないか。拒絶の言葉が怖いならボスにはきかなくてもいい。オレはいくらだって協力するから。
でもさ、そんな風に一人で泣くくらいならお腹の子のためにボスと向き合って戦ってもいいんじゃないの?そう思うオレは間違ってるのかな。

一生をボスに捧げるあんたにとってそれは邪魔なものかもしれないけれど、罪悪感で押し潰されそうになるくらいなら、その罪の半分はあんたのものだってボスに言えばいい。言わずに隠すから全てを抱え込む結果になるだけで、本当はお前の責任じゃないのに。お前がお腹の子をその腕に抱きしめたいって気持ちは変えようのない事実なのに。


任務からの帰りが遅れたせいでボスはイライラしている。スクアーロにいたっては帰ってこなかったから、その事をどうごまかしたものかとオレは頭を抱える。超直感を持つボスを簡単に欺けるわけがない。ばれていてもいいから表面上はオレのつく嘘に騙されるふりをしてくれるといいのだけど。
まだ病院にいるスクアーロは医者に口止めしてるみたいだけど無駄だ。だってさっき談話室でルッスーリアが「スクちゃん流産しかけたんですって!?」ってオレに話しかけてきたからボスにはとっくにばれてる。きっと今までの事も。

報告書を持ってボスの執務室のドアを叩く。気が重い…入ってくるなと怒鳴り散らしてくれたらいいのに簡単に入室を許可されてオレはいつも通り報告を済ませた。オレが退室せずに黙り込むと、ボスは「カス鮫はまだ病院か」とたずねた。
「うん。当分安静だって」
「てめぇは知ってたのか」
「…うん、ちょっと前からね」
「カスが…勝手に身篭りやがって」
ボスはどんな気持ちだろう。自分の好きにしてきた女が隠れて子供を堕胎していたなんて。
時間の問題だと思っていたけれど、こんなタイミングでばれるとは思ってなかったな。ああでもスクアーロのお腹の子を守るには良かったのかもしれない。
ボス、ボスとあのバカ鮫の子供はまだ生きてるよ。流産しかけたけれど、まだ生きてる。
人殺しのオレがこんな風に誰かの命を助けるなんてどうかしている。でもたぶん今しかないんだ。病室で泣いているかもしれないスクアーロのためにオレが行動できるのは。

「ボス、余計なお世話かもしれないけど言うよ。」
「何だ」と睨みつける紅い眼を真っ直ぐ見つめてオレは言葉を続けた。
「あいつを幸せにしてやって。面倒臭いかもしれないけど、それは世界中でボスにしかできない事なんだ。あいつをそんな風にしたのは他でもないボスだからね。少しくらい責任とってもいいんじゃない?」
ボスは何も言わなかった。割と子供には甘い所がある人だけれど、気に入らない事には容赦ないから、今のボスの態度は結構動揺しているのかもしれない。もう一押しだ。
「あと、ここからは王子の独り言ね。」と前置きしてボスの様子を窺う。ボスは視線だけを向けて早く言えと促す。
「オレはさぁ、十にも満たない頃から人を殺してたどうしようもない子供だったけれど、そんなオレでもスクアーロは温かく抱きしめてくれた。だからあいつの子供はとっても幸せに違いない。生まれる前から大事に守られて、あの優しい腕に抱きしめられる事が決まってるんだからね。…だからあいつの子供が生まれないなんておかしいんだ。こんなオレを幸せな気持ちにさせてくれたあいつが幸せになれないのはおかしいんだ。」
「ベル…わかった。もういい」
「堕ろすまでは大事にしたいからってスクアーロは体を冷やさないようにして体にいいものを食べてずっとお腹を撫でて過ごしてる。手術は三日後だよ。それまでに何とかしてよボス。オレは…街中で親子を見る度に生まれなかった子供を思い出して黙るあいつを見たくない。生まれなかった子供の年を数えるあいつをもう見たくない。」
「うるせぇ、てめぇに心配されるような事は何もねぇよ」
「…うん。わかってる」
ボスが何に対して怒っているのかはこの際どうでもよかった。ボスがスクアーロを抱きしめてくれるなら。


オレに吐き捨てた言葉通り、それからボスは簡単に奇跡を起こして見せた。
あっけなかった。
ほら見ろスクアーロ、王子の言った通りだったろ?
ボスがお前を手放すはずはないんだ。お前みたいなイイ女は滅多にいないんだから。



陽の当たる窓辺のソファーにスクアーロが座っている。その手は愛おしそうにお腹を撫でていた。
身ごもった彼女を見るのは初めてじゃなかったけれど、こんなにお腹が大きな彼女を見るのは初めてで、オレはなんだか胸がいっぱいだった。
もうすぐ彼女はお腹の子をその腕に抱きしめる事ができるのだ。何度も何度も泣いて、悩んで、ようやく幸せになる事を許されたのだ。

「ベル、どうしたぁ?」
オレに気付いたスクアーロが柔らかな眼差しを向ける。
嬉しかった。彼女が生き生きとした表情をするようになったことが。
オレはいたずらっぽく笑いながら「お腹の子、どう?」と声をかける。
「元気過ぎてよぉ、最近は自己主張しまくりだぜぇ。」
そうこぼしながら目を細めるスクアーロは艶やかで、とても神聖なものに見えた。
「触ってもいい?」
「おう」
日課になっているそのやりとりを今日も繰り返して、オレはそっとスクアーロの腹に触れた。
運が良ければ時々反応がある。新しい命は健やかに育っているらしい。
「王子が祝福してやるよ。お前は絶対に幸せになるから、安心して生まれておいで。生まれる前から幸せをこんなにも望まれているお前が生まれてこないはずはないんだ。」
ああだからスクアーロ、お前は早くこの子をその腕に抱いて幸せになればいい。
取り戻せない幸せもあるけれど、今はただこれから訪れる幸福に身を任せればいい。

「良かったね、スクアーロ」
「……ああ。ベル、色々ありがとなぁ」
そう言ってスクアーロは穏やかに笑った。



fin.

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