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※スクアーロ女体化、若干病んでます。
※ボスが他の女と結婚します。
その日、美しい銀の鮫は幸福に違いなかった。
「ボスはオレが犯人だって瞬時に理解して動いてくれた」
うっとりとした表情で彼女は仲間にそう語った。
最初の一発目は威嚇、二発目は新婦を庇うであろう新郎の肩を、そして三発目は新婦の心臓を。
「重症ね…」
ルッスーリアはスクアーロの気持ちが理解できたが共感には至らず、このまま彼女がこちらの世界に戻って来れないのではと危惧する気持ちの方が大きかった。
「王子もまさかこんな事になるとは思わなかった…」
スクアーロと会話する気は微塵もない様子でベルフェゴールは視線を宙に浮かせる。
「ボスを撃つなど言語道断だ!万死に値するぞ。貴様、聞いているのか!?」
レヴィ・ア・タンの抗議の声は「ばっかじゃねーの?そいつの耳に届いてるわけねーじゃん。あのバカザメは今オレらとは違う世界にいんだよ」という王子の侮蔑で収束した。
「ベルちゃん、言い過ぎよ。スクちゃんに聞こえてるわ」
「別にいーだろ。王子の言う事間違ってねーし」
ベルフェゴールはちらっとスクアーロを一瞥するとまたルッスーリアに向き直ってこぼした。
「無様だね。こんな事したって一文の得にもならないってのに。」
ふよふよと宙に浮きながら、マーモンはしっかりとスクアーロに向けてそう言った。
「でも私はちょっと同情しちゃったわぁ。…スクちゃんが捕まらなくてホントに良かった。」
ルッスーリアのその言葉に一同は少なからず同意した。ただその相手は銀色の鮫ではなく、彼らの主に向けてのものだった。
「う゛ぉ゛おい!!なんだてめぇら、人が黙ってりゃー好き放題言いやがって」
正気を取り戻したらしいスクアーロはいつもの調子で怒鳴り出す。
「だって本当の事じゃないか、こんなバカな事をして。相手の女を殺してボスに怪我させて…そんな愛の量り方ってちょっと酷いって僕でも思うもの。僕は君に同情なんかしないよ。君を憐れむ程暇じゃないんだ。」
金で全てを量ろうとする赤ん坊が珍しく「愛」なんて言葉を口にしたものだから、金髪の王子は思わず頭の中で赤ん坊の言葉を反芻する。
「……憐れむってさぁ、何かで読んだけど内臓が身悶えるって意味らしいぜ。そんくらい痛みを共有するって事だろ?」
ホントはお前がボスにしてやんなきゃいけないんじゃね?とベルフェゴールはスクアーロに言い放って自室に戻っていった。
確かにボスがスクアーロを理解していなければ、あいつのとった行動はボス自身の命をも消しかねなかった。そんな芝居に付き合ってやるなんて、ボスはなんて優しいんだろう。
あいつは今、ボスと通じ合えた事に歓喜しているだけの哀れな女だ。もっとも、そんな風にしかボスの想いを確かめられなかったのはボスのせいかもしれないけれど。
ボスの結婚が気に入らないならいつだって「結婚しないでくれと」はっきり懇願すればよかったんだ、とベルフェゴールは思った。
ザンザスにとって銃弾を避ける事自体はとても簡単なことだった。でもそれは彼女の望みではない。
彼女を満足させるには最初の威嚇で全てを把握し、二発目で新婦を庇って銃弾に倒れて見せ、三発目で新婦を殺されても疑われないように演技をする、というシナリオに沿わなければならない。
「オレだって…賭けだったんだぁ」
渦中の人物はそう呟いて俯いた。
ザンザスの年齢が三十路に届く頃、その結婚話は持ち上がった。
それが九代目の差し金なのか、その周りのボンゴレ幹部なのか、そんな事はヴァリアーという組織にとってどうでもいい事だった。しかし二度のクーデターを起こしたにも関わらず、世間ではザンザスはボンゴレの御曹司という肩書きを保ったままで、たとえボンゴレ十代目になれずとも自分の娘や身内の女をザンザスの嫁にしたいという輩が後を絶たない事をヴァリアー幹部は快く思っていなかった。
特にヴァリアーの副官であるスクアーロはその話題に過剰に反応し、これまでにも様々な手を尽くしてザンザスのお見合い話を幾度もぶち壊していた。そのため他の幹部や当のザンザスでさえ、今回もまたスクアーロが速やかに処理するものだと思っていた。
その無関心がいけなかったのかもしれない。
ザンザスが拒否しないのをいい事に、ボンゴレ本部はその結婚話を急ピッチで進めた。
花嫁候補の女はヴァリアー本部にも出入りするようになり、わずか半年で結婚式当日を迎えた。
そして教会で一通りの儀式を済ませたザンザスとその妻になった女は教会から出てきた所を狙撃された。
狙撃に使用された銃は警備にあたっていた護衛官が襲われ奪われたものであった。
その時ヴァリアーはボンゴレ本部と合同で警備にあたっていた。
もっともらしく現場に駆けつけ悲壮な演技をしてみせたスクアーロだったが、ヴァリアーどころかボンゴレ中の誰もが彼女がやったと確信していた。
ヴァリアー幹部で銃をメインに使用する者はいなかったが、彼らが本気になればこのくらいの芸当は朝飯前だという事は常識である。決定的だったのは彼女が隠そうともしなかった硝煙の匂いであった。
それだけ明らかだったにも関わらず、スクアーロは咎められもせずに事件は他のマフィアからの何らかの復讐であろうという結論で幕を閉じた。
狂気の沙汰としか思えないその行動に誰もが驚いた。なぜならそれまでスクアーロがザンザスの花嫁となるその女に嫉妬の念を全く抱かせない程それはもう見事に親身に接していたからだ。
ザンザスと愛人関係にあったスクアーロのその出方が周囲の人間には気がかりだった。
いつものように相手の女のスキャンダルをでっち上げたり目の前で暴力に訴えてみたりと手段を選らばず片付けるならまだしも、女友達でもできたかのようにこれまでとは掌を返したような態度をとるスクアーロ。その様子を見た幹部の誰もが、今度の女はスクアーロが認めた相手なのだと思い、彼女が認めたのならとザンザスの結婚を祝福しようという空気が流れた。
「なぜ今頃になって殺した?」
ザンザスが言いたいことはもっとあった。胸の中に渦巻く疑問や罵倒をどうにか押し込めてやっとそれだけ口にすると、「お前をやるのが惜しくなった」と銀の鮫はあっさり告白した。
白一色の病室。人ひとりが入院するにしてはやけに広すぎるその部屋をヴァリアー幹部は見舞いという名目で訪れた。
彼らの主は大事をとって入院しているが、もう狙撃の心配など必要ない事は明らかだった。
犯人であるスクアーロを皆で囲う形で動機確認のための尋問が行われる。
「だってそうだろぉ?世界で一番お前の事を想ってるのはオレなのに、なんでみすみすあんな女にくれてやらなきゃならないんだぁ?」
「殺さなくても他に方法があったろうが」
「…いや、あの女は殺すしかなかったんだぁ。ほんの一時とはいえ、お前の妻になったんだからなぁ。」
万死に値するだろぉ?とスクアーロは悪びれもせず笑って見せた。
ならば結婚する前にいくらでも手があっただろうとザンザスは思ったが、目の前の鮫はそんな理屈を受け入れる程理性があるようには見えなかったので、仕方なく口を閉ざす。
自分がなり得ないその地位にほんの僅かな時間でも就く事のできた女なんざ絶対に許せないとでも言いたげにスクアーロは周りの目も気にせずにザンザスを抱きしめた。
愛しい男の存在を確認するその仕草にザンザスは底の見えない何かに引きずられていくような気がした。それはザンザスがそれまで女に抱いたことのない恐怖に似た感覚だった。
「…おいカス、肩の傷が痛ぇ。離れろ。」
数秒後ザンザスがそう口にした瞬間「あ、悪ぃ」と呟いてスクアーロは主から離れた。
「てめぇ、もし捕まってたらどうするつもりだったんだ?あんなに開き直りやがって。」
誰のおかげで今生きていられるのかわかってんのか、と言外に含ませ苛立ちを抑え切れないザンザスに、「死んでもいいと思ったんだぁ…」と夢の中にいるようなうつろな表情で彼女はそう答えた。
「お前を手に入れたあの女をこの世から消して、もう誰にもお前を奪われないって思ったら……」
安心した、と消え入りそうな声でそう言い終わらないうちにスクアーロはその場に泣き崩れた。壮絶な愛の告白に、幹部たちはただ立ち尽くすだけだった。
ザンザスは手を伸ばし、さめざめと泣く女の頭を撫でた。
はじめから結婚する気などなかった。いつも彼の剣は主の意思に沿うように行動してくれたので、今回も何も言わずにいたら当日を迎えてしまっただけの事。
おそらく彼女が言った通り、今回の事件は命を賭しての行動だったのだろう。
プライドの高い彼女がそれほどの覚悟をしてまで全身で叫んでいた。
だからそれに応えなければならないとザンザスは思った。それは間違っていなかった。
もっと早く、別の言葉を伝えていればこんな事態にはならなかったかもしれない、と頭の片隅で考えもしたが、すぐにそれは無理だっただろうと思い直した。現状を受け入れるしかなかった。
「てめぇは…ホントどうしようもねぇドカスだな。」
ザンザスは自身に魅入られたその銀の鮫に憐れみに似た感情がわずかに残っているのを感じた。
fin.
***
「それってさー、お互いに愛してるって言えないだけじゃねぇの?」
「ベルちゃん、そんな風に言っちゃダメよ」
「はぁ?だってそうじゃん。なんでオレたちまでこんな愛憎劇場に巻き込まれなきゃなんねーの。王子そんな趣味ねーし。」
「確かにお互いに素直じゃないかもしれないけど…でもボスは体を張ってスクちゃんに応えたじゃない。」
「だからさ…バカらしいだろ。」
「あの二人はこれでいいのよ。」
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