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「カス、てめぇに急ぎの任務だ」
そう言って呼びつけたスクアーロに必要書類を渡す。
「……わかった」
たっぷり二十秒は黙り込んでそう呟くとさっさと出て行った。心なしかその足音は小さい。
わかっている。あのドカスは今頃落ち込んでいるに違いない。

カスに与えた任務の決行日は明日の夜、しかもターゲットの所在地はアジトから約半日かかる場所だ。これから作戦を練って準備をしなければ間に合わない。現地の情報収集に時間がかかれば下手をすると徹夜だ。
でもあいつはそんな事を苦にするような性格ではない。仕事には真面目な男だ。他人の命を奪うのだから相応の危険と引き換えなのだ。真剣にやらなければ逆に殺される。だから当然といえば当然の事ではあるのだ。

そんな事はどうでもいい。今あの鮫を絶望に似た感情が襲っている理由は、あいつが楽しみにしていた明日の夜の演奏会を聴きに行けなくなったという事実だ。
生憎明日は幹部の殆どが出払っている予定で、オレもいない。だから鮫は珍しく一人で行くつもりらしかった。
休みが潰れるなんてあいつは数え切れない程経験している。
それでも今回の予定はあいつにとって特別なものである事は容易に想像がつく。明日は鮫が贔屓にしている作曲家の新曲が初めて演奏される日だからだ。鮫は今回オレを誘わなかったので詳細はわからないが、新聞の芸術欄で騒がれていた演奏会の日付とプログラムがあいつの好みである事はすぐにわかったので間違いないだろう。
初演となるとその話題性からチケットは飛ぶように売れる。あいつもそれなりに苦労して手に入れたはずだ。
だからといってオレに特別な感情が湧くわけもなく、鮫のいなくなった部屋で淡々と書類を片付けた。


「ボスー、あいつおかしいんだけど」
夕食に現れなかった鮫がおかしいと怠惰の王子は言う。
「あいつはいつもおかしいだろうが」
「そうだけどさー…泣いてたぜ?ボス心当たりあるっしょ?」
心当たりはある。でもそれはベルフェゴールが期待するような類のものではない。
オレが黙っていると、ベルフェゴールは自分の都合のいいように解釈したらしく意味深な視線を投げかける。
「てめぇが期待してるような事は何もねぇぞ」
「ししっ、どうだか」
ベルフェゴールはこれから任務に行くと言い残して姿を消した。
ひっかかるのは泣いていた事より、あのプライドの高い鮫がそれを簡単に他人に見られたという事実。ベルフェゴールの事だ、ノックもなく突然鮫の部屋に上がりこんだのかもしれない。だが、少なくともベルフェゴールに違和感を与えるほどの状態だったのは間違いない。でなければあの怠惰の王子がわざわざ任務前にそんな報告をしに来るわけがない。
「…ちっ、ドカスが」
オレはいつものようにそう吐き捨ててデスクサイドの受話器を手にした。



「ボス、急にどうしたんだぁ?」
平静を装う鮫の目は腫れていた。たかが演奏会ごときでどれだけ泣いたんだ。
「うるせぇ、黙ってろ。」
私用で出かけるからついてこい、と鮫を呼び出してオレは隣町の劇場へ向かった。
明日来る予定だった劇場の裏口に連れてこられた鮫は訝しげにオレを見る。時刻はもう21時を回っていた。
「お待ちしておりました、ザンザス様!」
車から降りるのとほぼ同時に裏口から現れた初老の男がオレたちを出迎える。
「明日が本番という忙しい時に無理を言って申し訳ありません」
「いえ、構いませんよ。いつもお世話になっていますから。」
形式だけの挨拶を済ませると、しばらく人気のない廊下を歩いた。大ホールと書かれたドアが開かれると舞台裏で、そこを横切る形で客席に案内される。
舞台ではオーケストラが控えていた。
「なぁ、ザンザス…これって……」
鮫は気付いているだろう。あの男が明日の演奏会の指揮者である事も、これから何が起きるのかも。
「初演が聴きたかったんだろうが。黙って聴いてろ。」
誰もいない客席の中央にオレとスクアーロが着席すると、本番さながらに先ほどの指揮者が入場し、一礼した。

演奏が終わる頃には鮫は泣いていた。
てめぇが不用意にオレ以外の奴に泣き顔を見せるから連れてきてやったのに何泣いてやがる。
謙遜しているように見えるあの指揮者のじじいやその他の連中も内心はオレの事を権力を笠に着たわがままな御曹司だと思っているに違いない。実際やっている事はそうだから仕方ない。明日の本番に備えなければならないオーケストラをこんな時間まで拘束させた理由が、本番前に聴いてみたいという横暴のせいなのだ。どれだけ疎まれているかわかったものじゃない。
さっきから泣き止まない鮫は、オレがどんな嫌な思いをしてここにいるのかわかっているのか。てめぇが払ったチケット代の何百倍も金がかかってんだぞ。
これからあの指揮者のじじいとオーケストラに労いの言葉を言って車代を渡す事を思うと気が重い。
こんな事ならくたばりぞこないのクソじじいにボンゴレでオーケストラを所持しろと頼んだ方が楽だったかもしれない。いや、そうしよう。こんな風に形式的な挨拶をするなら気をつかわない分クソじじいの方がはるかにマシだ。
そう考え始めたのは鮫がみっともなく泣く姿をこれ以上他人に見られるのにオレが耐えられそうになかったからだが、それ以上に今後もこんな事で鮫に振り回されたくないというオレの精神衛生上の問題が大きかった。



fin.


***
鮫が女々しくてすみません…。
鮫が泣くと甘くなるボスとか、自分しか知らない鮫を他人に見られると独占欲発動するボスが書きたかったんです。

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