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「リトアニア、どこ行ってたの?」
日も沈んだ夕刻、外から帰ったリトアニアを見てロシアは声を上げた。
リトアニアのコートや髪には溶けかけた雪がまだその姿を留めている。
「ちょっと買い忘れていたものがあって」
「この寒い中わざわざ買いに行くほどのものだったの?」
ロシアはリトアニアに積もった雪を払ってやった。
「でもこれ…ロシアさんが食べたいって言ってたじゃないですか」

リトアニアはそう言うと持っていた紙袋の中身を見せた。ロシアが好きな店のパンやお菓子、食べ物の材料がいくつか入っている。
「そんなの明日でも良かったのに……まぁいいや。とりあえず僕おなかすいたから、早目に夕食にしてね」
「はい…」
ロシアにそう言われ、リトアニアはパタパタと台所へ消えていった。

「兄さん…」
声のする方を見ると、花を生けた花瓶を持ったベラルーシがいた。
「ベラルーシ」
ロシアのいる場所を少し通り過ぎたところにある台の上にその花瓶を飾った。
「その花、君が生けたの?きれいだね。」
「ありがとうございます。」
ベラルーシはロシアを見上げると少し目を細めて笑った。
「………」
ベラルーシはしばらくロシアに向き合いったまま黙り込む。
「どうし…」
言い終わらないうちに、ベラルーシは倒れこむようにロシアに抱きついた。
「兄さん…」
「もう、困った子だね…」
そう漏らしてうっすらと笑うと、ロシアは妹を抱きしめた。


***


「…っ、あ……いや」
大人しく口付けはさせるのに、今夜はどういうわけか、リトアニアはロシアが抱きしめようとすると身を捩って逃れようとする。
「リトアニア?」
離れようとするリトアニアの腕を掴むと、ロシアは強引に自分の方向へその腕を引いた。
「…っ……」
「どうしたの、リトアニア」
リトアニアはロシアと目が合うと反射的に目をそむける。それは照れているというわけではなく、どちらかというと嫌悪に近い感情からくるようだった。
心当たりのないリトアニアの態度に、ロシアはやり場のない苛立ちを覚え始めていた。
「リトアニア、いい加減にしなよ」
はき捨てるようにそう言うと、ロシアはためらいなくリトアニアをねじ伏せて顎を掬い、強引にその顔をこちらに向かせた。
「…っ、や……いや、です…」
「……」
声を詰まらせ懇願するリトアニアが頬を赤らめている事に気づくと、ロシアは困惑した。身を震わせ涙ぐむその瞳は、やりきれない気持ちをロシアに訴え、何かを咎めているようだった。

「………っ」
「リトアニア、どうしたの?」
何があったの、と言いかけてロシアはその瞳を覗き込むように見据えた。リトアニアは緩んだロシアの手を潜り抜けて背を向けると、消え入りそうな声で切り出した。
「わ、わかってるんです……こんなの、くだらないことだって……でも…」
「…何の話?」
「でも、嫌なんです…」
「………」
ロシアはもう何が?とはきかずに、黙ってリトアニアが打ち明けるのを待った。リトアニアも無言の視線を背中に感じて、いたたまれずに口を開いた。


「ベラルーシを抱きしめた腕で…オレを抱かないでください」


ロシアを振り仰いだその面持ちに、ほんの一瞬だけ目を見張るが、すぐにそれは緩んだ。
「…見てたの?」
「………」
リトアニアの表情は崩れない。ロシアはリトアニアに顔を近づけると、額にそっと口付けた。
「ごめんね、怒らないでよ。」
そう囁いてリトアニアの頭を撫でると、その表情はすぐにたじろいだ。
「別に、怒ってなんかいませんよ…」
きまりが悪そうにリトアニアが呟くと、そのそぶりを見ていたロシアは笑みをこぼす。リトアニアもそれにつられて顔をほころばせると、ロシアに向かって腕を開いた。



   fin.

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